イメージしたモノが形になることがモノづくりの楽しさ
産業用ロボットや自動化設備に強みをもつ日本の製造業は、早くからファクトリーオートメーション(FA=工場の自動化)に取り組んできた。スマートファクトリーは、FAとどこが違うのだろうか。
FAは同じ製品を大量につくり続けることに適した生産方式であり、これまで社会を支えてきた。しかし、食品ロスをはじめとするおびただしい数の廃棄が生じやすく、環境破壊を助長しかねない大量生産は、現代にそぐわなくなっている。求められるのは、必要なときに必要な量を生産する最適生産。無駄を減らすことで環境負荷を低減し、コスト削減にも寄与する。それを生産活動の自律化によって実現するのがスマートファクトリーだ。
Team Cross FAをリードする、天野眞也はその仕組みについてこう説明する。「できるだけ正確な未来予測のためには、サイバー空間上に人の動きも含め、リアルの工場に限りなく近いパラメータをそろえる必要があります。IoTですべての工程、設備のデータを収集し、AIなどでシミュレーションをして最適解を出し、それに基づいて自律的に工場を稼働させるのです」理想は受注生産であり、いかに遅れずに製品を届けられるかが自律化の究極だ。
Team Cross FAは無人工場を志向しているのではない。天野によれば、工場には自動化すべき業務とそうではない業務がある。技術者の創造性が求められる作業は自動化する必要はない。よりクリエイティブな仕事へとシフトしていくのが目的であり、「目指すのはゲーミフィケーション。つまり、モノづくりの面白さ」なのだ。
さらに天野は、スマートファクトリーは日本の優位性を生かして、新たな産業として海外輸出も期待できる分野だと言う。
「日本が得意とするのは、複雑なすり合わせや統合で価値を生み出していく作業です。スマートファクトリーの構築を産業化できれば、新たな産業になるはずです」
そのポイントとなるのは「コネクテッドエンジニアリング」だ。サイバーとフィジカル、ソフトウェアとハードウェアを融合する高度な技術と知見が求められる。しかし、それを実現するための要件は多岐にわたり、1社だけでできることではない。そこで天野らは、共同事業体「Team Cross FA(チームクロスエフエー)」を立ち上げた。運営窓口・企画・プロデュースのFAプロダクツに加え、工程設計・構想設計のロボコムや機械・制御・ソフト・IT・開発のオフィス エフエイ・コム、精密部品加工・量産・組立の日本サポートシステム、ネットワーク・セキュリティのINDUSTRIAL-X SECURITY、SaaSシステム・API連携のSaaSisの7社が幹事企業となり、電通国際情報サービス(ISID)、日立システムズ、ミツイワ、鹿島建設、日研トータルソーシングの5社が公式パートナーとして参画する強力な布陣だ。Team Cross FAは9月、東京都心にスマートファクトリーのショールーム「SMALABO TOKYO(スマラボ東京)」を開設した。デジタル技術とデータの利活用を実際の生産ロボットシステムに適用し、製造業におけるDXと生産ラインを実際のデモで体感することができる場だ。
スマートファクトリーは、ソフトウェアと生産設備の両輪で成り立っている。つまり、リアルとデジタルの連動は必須なのだ。「IoTで膨大なデータを集め、クラウド上でAIが最適解を出したとしても、実行にフィードバックできなければ意味がありませ
ん。そのためには、デジタルに合った生産ラインの構築が必要になります」
スマートファクトリーを構築するうえでキーとなる要素に産業用ロボットがあるが、ロボットは単なる機械ではなく、ソフトウェアや減速機、コントローラー、サーボモーターなどの基幹部品で構成され、そこにカメラやAGV(自動搬送車)、AMR(自律型協働ロボット)が加わり、さらに多くの専用機械が接続される。構成要素が多くなればなるほど統合の難度は増すが、「日本人にはデザインし切る胆力ときめ細やかな配慮がある」と天野は断言する。
SDGsに合致した福島県南相馬市発のスマートファクトリーを世界へ
スマートファクトリーを本格的に普及させるための生産基地として、Team Cross FAは福島の南相馬市復興工業団地に「ロボコム・アンド・エフエイコム南相馬工場」を建設中だ。Team Cross FAは同工場を次世代モノづくりの基幹工場と位置付け、ショールームとしての役割も期待している。
スマートファクトリーが目指す自律化は生産面だけではない。同工場は、エネルギーの自律化にも注力している。「これからは工場もいままで以上に環境に配慮する時代だ」と天野は強調する。
「我々の暮らしを豊かにするためにFAは進化していきましたが、大量生産にはエネルギーの大量消費という負の側面もあります。しかしこれからの時代は、ひとつの製品を生産するのにどれくらいのCO2を排出しエネルギーを消費したかを開示することが当たり前になります。環境対策もこれまで以上に重視しなければなりません」南相馬の工場は太陽光発電を導入し、創エネと省エネを徹底することでエネルギーの自律化を目指す。それはSDGs(持続可能な開発目標)にも合致した取り組みだ。
環境配慮型スマートファクトリーが世界を席巻する日はそう遠くない。
あまの・しんや◎キーエンスに新卒で入社後、組織横断型の社長直轄プロジェクトを率い、同社を売上数百億円から2,000億円を超える企業に成長させる。2010年起業。現在はFAプロダクツ会長、ロボコム社長、日本サポートシステム社長などを兼務。Team Cross FAではプロデュース統括を務める。
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日本経済再生の切り札、コネクテッドエンジニアリングの果てしなき可能性