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福岡県でイノベーションの波が起きている。その源泉のひとつとなっているのが、ベンチャー企業のビジネスマッチングや資金調達、販路拡大などのサポートを実施する「フクオカベンチャーマーケット」(以下FVM。主催:福岡県ベンチャービジネス支援協議会)だ。コロナ禍の現在、あらゆる業種・業態で推進が急務となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)をサポートするベンチャー企業が続々と存在感を発揮している。なぜ起業家たちは福岡の地を選び、そして飛躍できるのか。2020年10月26日に開催されたFVM「ニューノーマル特集」に登壇した企業を取材し、その背景を探った。


約20年で500社以上のマッチングに成功


ベンチャー企業とビジネスパートナーをつなぐマッチングの場として、毎月開催されているFVM。販路拡大や事業拡大のための資金調達や、効果的な業務提携をいくつも実現させている理由のひとつが、トレンドを敏感にとらえたテーマ設定だ。2020年10月26日に開催されたのは「ニューノーマル特集」(オンライン配信も同時実施)。ウィズコロナ、ポストコロナ時代のニーズをとらえた商品・サービスを開発・提供している注目のベンチャー企業6社が登壇した。

とりわけ、本稿で紹介する3社に共通するのは「地域・地方の課題解決」に真っ向から取り組んでいる点だ。製造業や建設業、物流、飲食店などの小規模店舗といった、地域密着型の事業者でデジタルシフトが進んでいない現実に危機感を抱き、東京などの首都圏から発信されているサービスだけではカバーできないきめ細かな視点での開発を実践している。

もちろん、そうした意欲を後押ししているのが、この20年間でFVMを約250回開催し、2,600以上のベンチャー企業をビジネスマッチングの舞台に押し上げた福岡県の尽力にあることは間違いない。しかも、500社以上のマッチングを実現している成果を見れば、単に機会を用意するだけでなくベンチャー企業が飛躍するための土壌が醸成されているといえるだろう。論より証拠。3社の取り組みについて見ていこう。

クアンド:国交省が注力する「遠隔臨場」を実現


まず紹介したいのは、「地方産業・レガシー産業のアップデート」をミッションに掲げて17年に設立したクアンド。創業者の下岡は 、九州大学4年時に米シリコンバレーを視察し、誰もが知る大企業でキャリアを積んできた。それがなぜ、Uターンして起業したのか。CEOの下岡純一郎はこう語る。

「海外を含めてキャリアを積みましたが、グローバルとは各都市の集合体だと感じました。それぞれの都市の特性を活かした産業があるべきで、ふるさとの課題を解決したいと自然に考えるようになりました」


クアンド 代表取締役CEO 下岡純一郎

そんな地に足のついた姿勢は、事業スタイルにも表れている。企業の課題に寄り添う並走型のコンサルティングからシステム開発、事業開発まで一気通貫のサポートを実践。さらに、そこで得た知見をすぐさまプロダクト開発に注ぎ込んでいる。そうやって誕生したプロダクトのひとつが現場情報共有プラットフォーム「SynQ(シンク)」。そのなかでも、建設現場などフィールドワーカーの働き方改革の取り組みとして、国土交通省も力を入れている「遠隔臨場」の実現を後押しするコミュニケーションツールが「SynQ Remote(シンクリモート)」だ。

「建設業は深刻な人手不足に悩まされ、しかも現場の情報共有ツールは未だにメール、電話、FAXが主流です。現場から『図面にない配管がある』と連絡を受け、たった数分で終了する確認のために数十分の移動をするといった非効率なことも日常的にあります。そこで『SynQ Remote』は、単なるビデオ通話だけでなく、ポインタや描画でわかりやすく指示したり、現場の様子を遠隔撮影してレポート作成したりできる機能があり、お客様から非常に喜ばれています。

当然、建築現場の働き方改革だけでなく、無用な対面や密集、移動が減らせるため新型コロナウイルス感染防止対策にも効果的。普段づかいのスマホやタブレットで利用できるため、導入コストを最小限に抑えられるメリットもある。オフィスワーカーにとってのOffice、デザイナーにとってのAdobeのように、「SynQ」がフィールドワーカーのプラットフォームとなる日も近いかもしれない。


ロジカム:九州から日本の物流に革命を起こす「サポロジ」


コロナ禍でより重要性が増している物流業界のDXを進めているのが、19年1月に設立されたロジカムだ。代表の大瀬麻衣子は、20歳で運送大手にドライバーとして入社してから12年間、物流業界一筋で働いてきた。

「運送や倉庫業務などを経験するなかで、物流は人が支える事業だとの実感を深めてきました。一方、人手不足は深刻化していて、若い働き手はどんどん少なくなり、ドライバーの高齢化が進んでいます。その原因は何かと考えたら、労働環境や待遇の問題に行き着きました」


ロジカム 代表取締役社長 大瀬麻衣子

経済産業省によれば(※)、19年の消費者向けEC市場は前年比7.65ポイント増の19兆3,609億円。コロナ禍によってさらにネット通販需要は伸びており、ラストワンマイルを手がけるドライバーの重要度は増すばかりだが、業界の構造が労働意欲を阻害していると大瀬は指摘する。

※経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」

「物流業界は多重構造なので、末端のドライバーが受け取る報酬がどうしても低くなります。結果、『単価が安くて稼げない』というイメージが根強くて、宅配業務を嫌がるドライバーは少なくないのです」

そこで開発したのが荷主とドライバーを直接つなげる軽貨物に特化した配送マッチングサービス、「サポロジ」だ。中間業者を一切通さないため、荷主はコスト削減でき、ドライバーは適正な対価が受け取れる。ドライバーだった大瀬が開発しただけあって、イレギュラーな配送に迅速な対応ができるなど、現場を熟知した仕様になっているほか、九州・福岡に特化しているのも特徴だ。

「実は、同様のサービスを展開している大手が数社あります。しかし、九州での対応は手薄に感じました。物流のレベルが落ちるとEC市場の拡大も止まりますし、ドライバーの質も向上しません。荷主さんが信頼できるドライバーを選べるとともに、ドライバーにとっても働きやすい仕組みをつくることは、幸せの連鎖を生み出せると思うのです」

今後は某物流大手との提携を足がかりに全国展開を進めていく。


トイポ:資本・ITリテラシー要らずの店舗DX


デジタル化の推進が叫ばれている昨今だが、個人経営などの小規模・中規模店舗ではウェブサイトやSNSの利用にとどまっているところが大半だろう。そんな現状を変革したいと立ち上がったのがトイポCEOの村岡拓也だ。起業したのは19年4月、村岡はまだ23歳だった。

「福岡の飯塚市に住んでいたのですが、クーポンやスタンプカードが紙だけだったり、予約を電話でしかできなかったりするのが不便だと感じていました。デジタル化を進めれば生活を便利にできるのではないかと思って開発したのがスマホアプリ『トイポ』です」


トイポ 代表取締役 村岡拓也

トイポには、店舗が利用したい「プッシュ通知」「クーポン発行」「来店スタンプ」「モバイルオーダー」の機能がすでに用意されている。店舗は、登録するだけでそれらがすぐ利用できる。料金は月払いの定額制で、新たな端末の導入や初期費用をかける必要もない。資本やITリテラシーがなくても、一気にDXを推進できるというわけだ。

よい意味でのフットワークの軽さがあるのも頼もしい。たとえば飲食店などのメニューを配信して事前に注文・決済までできる「モバイルオーダー」は、新型コロナウイルスが感染拡大してから開発スピードを加速。6月初旬にローンチさせた。デリバリーやテイクアウトにも対応可能となっている。

「もともと注文・決済機能は取り組もうと思っていましたが、コロナ禍で非接触のニーズが高まりましたので最優先で開発しました。実際、いろいろな店舗の経営者とお話をしていますが、明らかにデジタル化への取り組みが主体的になってきたのを感じます。いままで飲食店や美容院、アミューズメント施設など約30店に展開してきましたが、他のさまざまな業態でも検証を進めて、これまで以上に幅広く便利に利用していただけるサービスにしたいと思っています」


人脈形成の後押しもする福岡県の手厚いサポート


いまは、第4次ベンチャーブームの真っ只中とされる。日本経済の停滞が長期化するなかで、ベンチャー企業に対する期待は大きいが、ビジネスパートナーによってその事業展開が大きく変わるのも事実だ。その点について、クアンドCEOの下岡は次のように話す。

「県の支援担当が相手先まで同行して社長さんとつないでくれるなど、きめ細かく支えられているという実感があります。また、ベンチャー経営者の勉強会に、東京などから著名な起業家などを招聘してくれるのもありがたいですね。地方を拠点としたビジネス展開でほとんど唯一のデメリットが人脈形成ですから」

行政ならではのネットワークと、約20年継続してきたベンチャー支援のノウハウ――。現在機運が高まるDX推進を力強くサポートする3社でわかるように、FVMで時代のニーズを先取りする“有望株”が次々に登場する背景には、福岡県の手厚いサポートがあるといえそうだ。



福岡ベンチャーマーケット(FVM)
https://www.fvm-support.com/


下岡純一郎 ◎しもおか・じゅんいちろう クアンド 代表取締役CEO。福岡県北九州市出身。九州大学理学部、京都大学大学院卒。P&G、博報堂コンサルティングを経て、2017年クアンドを創業。建設業などの現場仕事の効率化と働き方の改善を目的とした遠隔作業支援ツール「SynQ Remote」を開発。

大瀬麻衣子 ◎おおせ・まいこ ロジカム 代表取締役社長。長崎県出身。20歳で物流業界に飛び込む。佐川急便勤務を経て、2019年にロジカムを創業。九州を拠点に軽貨物マッチングサービスを活用した、通販・流通加工・物流のワンストップ支援事業を展開している。

村岡拓也 ◎むらおか・たくや トイポ 代表取締役。福岡県飯塚市出身。2019年トイポを創業し、福岡のスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Next に拠点を構える。飲食店のメニューを来店者のスマホに配信し、注文や決済までを事前にできる「モバイルオーダー」を開発。

Promoted by 福岡県 / text by Hidekazu Takahashi / photographs by Shuji Goto edit by Akio Takashiro

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