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2020.07.16 16:00

「投資したくなるハードウェア・スタートアップ」の共通点とは?

グローバル・ブレインのベンチャーキャピタリスト 青木英剛。

グローバル・ブレインのベンチャーキャピタリスト 青木英剛。

日本のものづくりの未来はスタートアップの成長にかかっている。
「経営・技術」の両輪を極めたベンチャーキャピタリストが語る、ハードウェア・スタートアップが掲げるべき「超ニッチ戦略」とは何か?


スペースシャトルのコックピット内を背景画像にしてZoomインタビューに現れたのは、ベンチャーキャピタリストの青木英剛だ。

グローバル・ブレイン株式会社のベンチャーキャピタリストとして、ハードウェア・スタートアップの支援を国内外で手がける青木。かつては技術者として、日本初の宇宙船である宇宙ステーション補給機「こうのとり」の開発に最前線で従事した。

製造業にまつわる技術と経営の知識を兼ね備えた青木は、政府の政策委員会や東京都の「Tokyo Startup BEAMプロジェクト」にもプログラムパートナーとして関わる。その青木に、ハードウェア・スタートアップへの投資の現状と展望について聞いた。

日本の「中小企業クラスター」は世界トップクラス


グローバル競争の激しさが増し、デジタル化の波が押し寄せるなか、国内の製造業はここ10年、競争力を大きく失いつつある。これまでの大企業中心の産業構造ではスピード感に欠け、もはや立ち行かない状況があらわとなった。

「そこで我々は、ものづくりの大企業や中小企業とスタートアップが協業することで、新たな市場の創出を図ることを目指しています。その働きかけをさまざまな形で行っているんです」と青木は言う。

ハードウェア・スタートアップは、たとえば、急速に広がるAI技術を用いたロボティクスや、宇宙産業などの分野で成長が期待されている。だがハードウェア・スタートアップにとって、資金調達は至難の技だ。ベンチャーキャピタルへアプローチするには、プロトタイプがまず必要となるが、ハードウェアではその試作品づくりにもそれなりのお金がかかるからだ。

そのため海外では、このエントリーレベルでのリスクマネーを国が供給することが多い。例えばアメリカには、日本よりはるかに潤沢な予算を確保するSBIR(中小企業技術革新制度)がある。ヨーロッパの各国でも、ベンチャー企業に対して「会社が出来た瞬間に、数千万円単位でドンと出す」のだという。こうしたハードウェア・スタートアップを支援するエコシステムが、欧米やイスラエル等ではすでに出来上がっている。

これらの国々と比べ、日本は「政策、資金、人材などのあらゆる面で、支援策の遅れが目立つ」と青木は指摘する。「ハードウェア・スタートアップが生まれ、何社かがエグジット(上場またはM&A)して、次のスタートアップを支援する、というエコシステムが、まだ一巡しきっていないような状況です。Tokyo Startup BEAMプロジェクトなどの支援プログラムによって、数年後までに循環フェーズに移行していくことを期待しています」(青木)

ハードウェア・スタートアップへの支援策では遅れが否めないが、日本の製造業には「まだまだチャンスがある」と青木は言う。大企業には無論、アセットや人材などの強みがある。さらに注目すべきは、中小企業が持つものづくりの力のポテンシャルだ。

「日本の中小企業クラスターは、確実に世界のトップクラスです。にもかかわらず、長年、大企業の下請けとして事業を行い、前面に出ることが少なかった。これからは独自の製品を提案したり、ベンチャーと組んだりすることを、選択肢とする中小企業が増えていくのではないでしょうか」

青木はものづくりの大企業や中小企業とスタートアップとの協業を勧めるが、具体的な理由がある。シリコンバレーとの連携を目論んでいるのだ。ソフトウェアのみならず、ハードウェアのスタートアップも続々とシリコンバレーでは誕生している。

だが試作品を作ろうとしても、周辺にはものづくりを手掛ける中小企業も町工場も限られている。そこで中国の深センに行き、プロトタイプから量産までを行うことを選択するが、品質や量産の工程などで、何かとうまくいかないケースが発生する。スタートアップは、いわゆる「深セン・マネージメント」ができる人材を必要とする事態に陥るが、こうした人材はそうそう見つかるものではない。

青木がシリコンバレーの投資先によく提案するのは、日本の中小企業や町工場と組み、試作品づくりから少量生産までを行うことだ。「日本の企業を紹介したら、評判は上々です。質はやはり良いし、スピード感もある。ものづくりのことがよくわかっているので、手取り足取り教えなくても良いものが出来上がってくると」。

大量生産をするには、中国の方がコストを押さえられる。ただ少量生産までのフェーズで、スピードややり直しなど諸々のコストをトータルで見ると、中国との差はさしてなくなる。加えて、技術の流出といったリスクも少ない。そうした観点から、「日本で生産するのがいいんじゃないかと、注目するシリコンバレーのスタートアップが増えてきている」と青木は話す。


シリコンバレーとの連携について語る青木

スタートアップが狙うべき「超ニッチ戦略」


では翻って、ものづくりスタートアップが投資を得るには、どのような条件を備えていれば良いのだろうか。

「弊社で出資条件としているのは、その会社が世界で勝てる、尖った技術を持っていること。さらにその技術によって、世の中で何かしらの負を解消するのか、あるいはまったく新しい世界をつくろうとしているのか。そのあたりがポイントになります」(青木)

例えば、大学や研究機関での研究成果がバックグラウンドにあるケースや、大企業である分野の研究をしてきた人が満を持してスピンアウトするケースなども考えられる。世界の第一人者が立ち上げたかということは重要だが、それだけで出資するとは限らない。

「マーケットの部分であったり、チームの部分であったり、会社としてしっかり成長する可能性があるかも見極めます。技術とビジネスの両輪が揃っているのが理想ですが、技術の凄さのみが際立つ場合は、もう片輪を我々が提供することもあります。初めから全てが揃った人たちなどいませんので」(青木)

資金調達への道筋もさることながら、ものづくりスタートアップにとっては、大企業がひしめく製造業界への参入も難関だ。青木は、そこで最もつまずく要因として「プロダクト・マーケット・フィットが出来ていない」ことを挙げる。つまり、用途開発の分析が徹底されていなかったがゆえに、自己満足や実証実験で終わってしまうのだ。

「スタートアップでは、超ニッチ戦略が最重要です。この分野の、この領域の、この用途で、大ファンとなってくれる方を、まず探しに行かなければなりません。評価してくれる人を見つけたら、その用途に特化して作った製品を使ってもらう。顧客へのヒアリングは、ものづくりの現場にフィードバックし、高速で回していきます。うまくいくのは、それを愚直に行ったケースだけなのではないか」と青木は見ている。

最後に青木は、ものづくりスタートアップの立ち上げを目指す人たちに向けて、「リスクはありません。どんどん挑戦してください」とエールを送る。そしてすでに創業し、資金調達や成長を成し遂げようとしている経営者には、「失敗は諦めない限りはありませんので、とにかくやり続けてほしい」と、次のようなメッセージを添える。

「イーロン・マスクは3回連続打ち上げに失敗して、4回目でようやく成功、いまや自社製ロケットでNASAの宇宙飛行士を宇宙に届けました。あきらめなかった人たちのみが唯一成功できるというのは、多くの経営者を見てもわかることです。創業した時の気持ちを忘れずに、突き進んでいただくことを願っています」


── Tokyo Startup BEAMプロジェクト ──
「BEAM」は、Build up、Ecosystem、Accelerator、Monozukuriの頭文字。
本記事は、東京都の特設サイトからの転載であり、製造業にまつわる技術と経営の知識を兼ね備えた青木もプロジェクトを応援している。

本事業に関する詳細は特設サイトから

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