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2022.01.21

「2050年にもやっぱり肉を食べたい」──食糧危機をAIと豚で乗り越えよ

東京都が都内のものづくりベンチャーを支援する取り組み、「東京都ものづくりベンチャー育成事業(Tokyo Startup BEAM プロジェクト)」。このプロジェクトに採択された企業の想いを聞き、未来に与えるインパクトを予見する連載企画が「『ものづくりの街 TOKYO』始動」だ。



Tokyo Startup BEAMプロジェクトでは、2022年2月2日(水)に成果発表会を開催・配信(事前登録不要)します。プロジェクト採択企業の取組の成果を、ぜひご覧ください!

◆◆配信予定チャンネル(Forbes JAPAN オフィシャルYouTubeチャンネル)◆◆
https://youtu.be/ULdcScHW9Vo

※成果発表会の当日のプログラムなどについては、本事業ウェブサイトをご参照ください。
https://startup-beam.tokyo/news/news/329/




平成29年11月29日、平成最後の「いいにく」の日から日本の養豚が変わり始めた。その日、株式会社Eco-Porkが誕生し、一筋の光明が見えたからである。同社は「“豚”を中心に据えたタンパク質の循環型社会」を目指し、食文化を持続可能なものに変えようとしている。



現在79億人の世界総人口は2030年に85億人、2050年には97億人になると予測されている。増加する世界総人口とともに問題となっているのが、深刻な食料危機とそれに伴う「タンパク質危機」だ。タンパク質危機とは、人口の増加に加えて途上国の経済発展による生活レベルの向上により、人類が必要とする肉や魚といったタンパク質の需要に供給が追いつかなくなることを意味している。

タンパク質危機に対する現在の世界のトレンドは、「代替肉」「昆虫食」にある。アメリカでは、大手ハンバーガーチェーンにおいて大豆を使った代替肉商品の発売が開始された。フィンランドやスイスのスーパーマーケットでは、すでに昆虫食がスナック菓子感覚で売られている。食料の世界的危機に対する感覚が悠長だと揶揄される日本でもネクストミートに関する研究は進められているが、日本人が食文化として代替肉や昆虫食を受け入れるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

今回紹介する株式会社Eco-Porkは、世界のトレンドとはまったく別のベクトルでタンパク質危機に挑むことにより、同時に食料危機にもリーチする。「豚」を中心に据えることで見えてくる持続可能な肉食文化と、それが食料問題の解決にもつながる構図を、同社代表の神林隆に聞いた。

AIは人を健やかにするためにあるべき


約20年前、神林は大学でAIの研究をするかたわら、国際協力NGOに参加し、SDGsの前身であるMDGsの達成に向けて、世界の環境問題の改善に取り組んでいた。このNGOで食料危機問題を担当していたのが、微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)の食品化で知られる株式会社ユーグレナの創業者・出雲充である。若かりし神林と出雲は、当時から世界課題に対する危機感を共有し、ともに一度は企業に就職するが、その後はそれぞれがソーシャルアントレプレナーの道を歩むことになる。

神林はミシガン大学でMBAを取得後、外資系コンサルティングファームで通信や自動車、製造業の領域において統計解析・AIを活用した新規ソリューションの開発を主導した。

「コンサル時代には、IoT、ICT、AIを使い、コミュニケーションや行動のデータを集め、HRテックやピープルアナリティクスで人間の生産性を高める研究を行っていました。Google社やApple社などの一部では無料で社食が提供されていますが、それは、福利厚生といった意味だけではなく、上司とフランクにコミュニケーションをとる機会が一日に一回以上あれば、生産性は上がるというデータに基づく、生産性向上のための施策です」

しかし、この手法を日本の企業に導入する際に、神林はしばしば違和感を覚えていた。

「日本のHRテックでは、KPIにおいて社員の生産性向上よりも、一括採用と社員をいかに辞めさせないかという部分が当時は重視されがちでした。統計解析とAIを使って社員を“群”で管理し、『半年後、この群の一定数は68%の確率で退職します。しかし、残業代を2万円上げれば、その確率が28%まで下がります』など、そういったことが研究でわかるようになり、評価もされていました。ただ、社員が生き生きと働く環境を用意して生産性を上げていくという、そもそもの研究目的との乖離を次第に感じるようになっていきました。」

自分のやっている仕事は、本当に世の中のためになっているのか。神林は、コンサルの仕事を続けながら、世界の抱える課題に真剣に取り組んでいた若かりし頃を思い出した。ちょうどその頃に産まれた子どもの存在も大きかったという。

「世の中をよくできる手法も、仲間も、テクノロジーも、アイデアももっているのに、それをしないという選択をした自分の背中を生まれてくる子どもに見せ続けたくない。私が起業を決めたのは、こうした想いがあったからでもあります。AIは人を健やかにするためにあるべき。しかし、その方向性に行けないのであれば、ステージを変えようと思いました」

豚を中心に据えてタンパク質の循環型社会を構築


なぜ豚だったのかを尋ねると、神林は2つの理由を挙げた。ひとつは群生物(人間)の生産性向上アルゴリズムの研究技術と非常に親和性が高かった業界が畜産、それも養豚だったという点だ。

「豚は、世界で年間15億頭ほど産まれています。世界的には、養豚は農業のなかで米や小麦を超える一番大きな産業ですが、デジタル化が進んでいないという現状があります。例えば、「牛」は2000年代に狂牛病問題がおき、トレーサビリティが重視され全世界でデジタル管理が義務付けられた結果、多くのITスタートアップが参入しています。「鳥」については、数百羽で1グループという考え方をするため、実は牛の個体管理に近い発想でデジタル化が進んでいます。しかし、「豚」のデジタル化はこれまで手付かずでした。どうして手付かずだったかというと、生産者が管理する豚の数は、牛に比べて100〜1000倍ほども多く、簡単に言うと技術的に難しかったからです。10頭の牛をみるAIは比較的簡単な個体管理の仕組みで実現できますが、個体管理の発想で組まれたAIで1万頭をみるのは不可能です。群で生産性を上げるノウハウは、私たちしかもっていませんでした」

もうひとつの理由は、豚を中心に据えることでタンパク質の循環型社会を構築できるということだ。

「いま、世界的な食料危機とともにタンパク質危機が問題視されていますが、畜産の生産量を増やすには、当然飼料となる穀物が必要となります。例えば、2018年時点で世界の米の生産量は4.7億tでしたが、養豚が必要とする飼料穀物の消費量は、その1.3倍の6.1億tでした。養豚に生産管理の発想を持ち込み、AIによる群管理が可能になれば、養豚に使っている穀物の30%を人間に回せます。年間15億頭も産まれる豚を中心にしたタンパク質の循環型社会の構築は、食料危機とタンパク質危機の両方を改善させるのです」

こうした神林の理想を実現するのが、Eco-Porkが提供する養豚経営システム「Porker」である。

日本の養豚は「Porker」で変わる


「Porker」は、畜産の既存プロセスをICTでデータ化し、把握しきれない飼育環境のデータをIoT機器で取得する。また、蓄積したデータをAIで分析することで最適な生産体制の構築を可能にするものだ。まず、神林は土台となるデータづくり、インフラの整備から始めた。

「創業前には関東近郊の養豚農家に飛び込みで伺い、現場の管理表の項目や仕事のルーティンなどを勉強させてもらいました。現場スタッフに外国籍の方を抱える養豚農家も多いため、誰もが使えるUIやUXには特にこだわり、協力農家と試行錯誤しながら、初期設定とトレーニングを半日で終えて午後には実践に入れるマニュアルもつくりました。私たちは、最初の1、2年で生産管理体制の土台となるデータを手に入れていきました」

その1年後までに100万頭のデータを取得した結果、「Porker」による生産管理・データ分析が成果を上げ始める。導入農家では出荷売り上げ年率平均7%UPの成果を出すようになった。

しかし、「Porker」はまだ完成していない。前述のタンパク質の循環型社会構築に向けたプランが、Tokyo Startup BEAM プロジェクトの採択を受けて、いよいよ始まる。そのプランとは、給餌量データの取得を可能とする遠隔給餌管理機の機能試作である。

「私たちのようなスタートアップにとって、ハードウェアを製作するというハードルは非常に高いものです。『Porker』によって豚がタンパク質の循環型社会の中心となるためには、給餌量データの取得が不可欠だとわかってはいましたが、なかなか取り組めないでいました。今回の採択で、やっと次のフェーズに向かえたと言えます」

一般的に、96〜116kgで出荷される豚は「上物」として取引されるが、ここ30年、上物の出荷割合は50%に届かない。ひとりの担当者が数百~数千頭ほど管理しているアナログな現状では、これが限界であった。しかし、遠隔給餌管理機を組み込んだ『Porker』では、これが劇的に変わる。

「人間のトレーニングでも、パーソナルトレーナーがつくと年齢や健康状態、体重、体脂肪などを考慮し、食生活から見直したりするので、効率は上がりますよね。実は、種豚を育てる種豚検定農場では、ひとりの担当者が見る種豚は数頭ほどで、それこそサラブレットを育てるように大切に管理しています。そうした現場だと日本平均と比較し生産量が50%上がり、餌量は30%減るというデータがあるのですが、同じことを一般の畜産農場で行うのは不可能です。しかし、『Porker』であれば可能となります。『Porker』の正体は、ICT × IoT × AI × 養豚設備+農学による『豚のパーソナルトレーナー』なのです」


国内で初めて完全自働で豚体重の測定を可能とする「AI豚カメラ(ABC)」

遠隔給餌管理機が「Porker」のスケールに組み込まれたことにより、豚が中心にあるタンパク質の循環型社会構築への第一歩が踏み出された。今後は、その普及が肝となる。2021年10月現在、「Porker」を導入している日本の養豚農家の割合は7〜8%だが、この給餌機の完成をもって、神林は来年の目標値を15%に設定した。

「2018年のTPPで豚肉の関税率の段階的引き下げが決まりましたが、最終的には10分の1になるというのは途方もない数字です。そこに危機感を抱いている養豚農家は多いですし、『Porker』でトレーサビリティを証明できることも今後大きな利点となるでしょう。また、養豚業界においても後継者問題は深刻です。畜産農家の平均年齢は60〜70歳ですが、事業を承継した若い世代は、代替わりのタイミングでデジタル化を一気に推し進めようと模索しています。そういった次代の意欲的な養豚事業者の受け皿になれたら嬉しいですね」

最後に神林は、「『Porker』により、養豚農家に結果を提供し続け、出来るだけ早く普及率を50%以上にしたい。そうすることで初めて、日本の養豚は変わったなと言えるんじゃないかな」と決意を新たにした。

4年前の「いいにく」の日から日本の養豚を変え始め、これからも劇的に変えていく神林。次代には豚肉が危機を救う世界を残し、自分の子どもには父親として最高の背中を見せ続ける。



神林 隆(かんばやし・たかし)◎株式会社Eco-Pork代表取締役。ミシガン大学経営学修士課程を成績優秀者として修了。外資系コンサルティングファームにて、製造業等の経営コンサルや人工知能による新規ソリューション開発等に従事した後、2017年にEco-Pork社を創業。

── Tokyo Startup BEAMプロジェクト ──
「BEAM」は、Build up、Ecosystem、Accelerator、Monozukuriの頭文字。
BEAMは、都内製造業事業者やベンチャーキャピタル、公的支援機関などが連携し、ものづくりベンチャーの成長を、技術・資金・経営の面で強力にサポートする。東京は、世界で最もハードウェア開発とその事業化に適した都市だ。この好条件を生かし、東京から世界的なものづくりベンチャーを育て、ものづくりの好循環を生み出すこと(エコシステムの構築)が、本事業の目的である。
本記事は、東京都の特設サイトからの転載である。

Tokyo Startup BEAMプロジェクトでは、2022年2月2日(水)に成果発表会を開催・配信(事前登録不要)します。プロジェクト採択企業の取組の成果を、ぜひご覧ください!

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