2019年6月7日から9日の3日間、「G20世界宗教サミット」がホテルニューオータニ幕張で開催された。共同主催の世界開発協力機構で総裁を務める半田晴久氏は、宗教、政治、民間の連携によってSDGsの達成が叶うと力強く宣言した。
今年で6回目を迎えた「G20世界宗教サミット」はかつてない規模で開催された。いまや世界中の人々がこのフォーラムで討議されるアジェンダに強い関心を払うのは、グローバル、ローカルそれぞれの課題が山積している状況で、宗教リーダーが解決の糸口としてどのようなロードマップを示すのか、また、世界中の人々に何を喚起するのか、その発言の影響力の大きさが理由のひとつとして挙げられるだろう。
2015年、国連のサミットで採択されたSDGsは、「地球上の誰一人として取り残さない」という理念を掲げている。SDGsの17のゴールには相関性があり、どれかひとつでもそのプロセスが途中で頓挫すれば、達成には至らない。現在、その動きが鈍化している大きな要因は、「貧困に終止符を打つ」というゴール1とゴール2に定められたターゲットといえよう。貧困地域では、さまざまな宗教が慈善活動家、団体と連携し、多くの支援を行っている。そのネットワークから数多の課題を浮き彫りにし、G20の首脳に政策提言するのがこのフォーラムの最大の目的だ。
もうひとつ、このサミットが注目される理由がある。共同主催者の世界開発協力機構(WSD)のイニシアティブだ。同機構は、紛争犠牲者や難民などに人道支援を行っている慈善団体で、過去にはラオスに産科新生児病院、カンボジアに無料診察のエマージェンシー病院を設立。また世界平和を広く訴えるためにさまざまな国際サミットを開催している。その活動のなかでも「世界オピニオンリーダーズサミット」は非常にインパクトのある大会で、過去にはトニー・ブレア元英国首相、ビル・クリントン元米国大統領、バラク・オバマ前米国大統領をゲストに迎え、複雑化する社会問題に対して先進国の人々がどう関わるべきか、指針を提示してきた。
このWSDで強いリーダーシップを発揮しているのが、同機構の総裁で、「HANDA Watch World」を運営するミスズ社長でもある、半田晴久氏である。半田氏の多岐にわたる慈善活動や実績は、日本よりもむしろ海外で広く知られ、ジョン・キー元ニュージーランド首相、エンダ・ケニー前アイルランド首相は、半田氏の盟友として同団体の名誉総裁に名を連ね、志をともにしている。
本年度の「G20世界宗教サミット」には、宗教リーダーのほか、政治、経済、教育、科学といった分野の著名な人物300人が日本に集い、貧困、移民・難民問題、教育、環境破壊といったテーマについて議論が交わされた。特別ゲストとして、デイヴィッド・キャメロン元英国首相、ケープタウン大学総長のグラサ・マシェル氏、ノーベル平和賞受賞のデニース・コグラン氏らが招かれ、モデレータとしてスピーチした。公開ディスカッションの初日には、萩生田光一自民党幹事長代行が安倍晋三内閣総理大臣の名代として登壇。祝辞を述べた。
エンダ・ケニー、ジョン・キー、グラサ・マシェル各氏の討論風景。デイヴィッド・キャメロン氏の基調講演の様子。ノーベル平和賞受賞のデニース・コグラン氏3日間にわたって行われたこのサミットは初日こそ非公開だったものの、2日目、3日目は一般公開され、観客数は2日間で4000人だった。実に33人もの国際的リーダーが壇上に上がった。 フォーラムの発足式で、半田氏は、次のように力強く宣言している。
「世界の85%の人々が宗教と深い関わりをもっています。このことを考慮したうえで、政治家は地球規模の課題に向き合う必要があります。SDGsが達成されれば世の中に素晴らしいことが起きる。そのためには宗教リーダーのネットワークを生かすべきです」
「G20世界宗教サミット」のホストを務めた半田晴久氏。このフォーラムでは、ヴァルソロメオス1世コンスタンティノープル総主教、フランシスコローマ法王からもメッセージが届けられ、宗教コミュニティは平和を共有し、恵まれない子どもたちに目を向けること、人間愛と責任なくしてこれ以上の社会的進歩はないと訴えた。
また、世界に最も影響力をもつイスラム教徒のひとりでエジプトの議会議員兼大学教授を務めるオサマ・アル・アズハリ博士は、コーランの教えとSDGsの理念は一致すると、ムスリムの指導者に共有された見解を示した。驚くことに、平和を願う宗教リーダーの多くは、これまでの対立を対話で克服し、宗教、宗派の壁を越え、貧しい人々を救うためのプラットフォームを構築しようとしている。
イスラム教徒の指導者のオサマ・アル・アズハリ博士最大の犠牲者は無垢な子どもたち 今回のサミットは、ほぼすべてのスピーカーが貧困問題を取り上げたのが特徴といえるだろう。世界銀行は1日1.90ドル未満で生活せざるをえない状況に陥った人々を絶対的貧困層とし、改善されていないことに危機感を示している。国連でも、貧困層のほとんどは世界の70%以上を占める開発途上国で暮らし、9人に1人が飢餓に苦しんでいるというデータを発表している。本記事では、そうした状況を切実に訴えた、現ケープタウン大学総長のマシェル氏のスピーチに注目した。
マシェル氏は、故ネルソン・マンデラ南アフリカ大統領の夫人だったことでも知られ、長年にわたり貧困国の子どもたちを支援し、数多くの勲章を受章している。
「紛争や気候変動の影響で第二次世界大戦後最悪の6500万人が難民として生活せざるをえない状況にあります。そのうちの52%が子どもです。子どもたちは十分な栄養を摂れず、脳、内臓の機能が低下し、厳しい生活のなかで命を落とすこともある。弱者は犯罪ネットワークの標的となり、強制労働、臓器提供を強要されています。この事実から目を背けてはいけません。さらに深刻なのは、自国を追われた子どもたちがきちんとした教育を受けられていないこと。子どもは宝です。子どもたちに機会を与えれば、開発途上国の経済成長にもつながります。機会が与えられなければ、道徳や創造力が身につかず、大人になっても社会に溶け込めない。私たちは、子どもの潜在能力を信じ、学術、民間セクター、宗教が連携し、よりイノベーティブな活動を行わなければなりません。人類の将来において、健全な心を育てる教育は最も大切です。SDGsの成否は私たち一人ひとりの行動にかかっています。地球に住む人間すべてがまずこの問題に関心を寄せなければなりません」
現在、難民の90%を受け入れているのは開発途上国である。英国のBBCや日本のNHKの取材でも明らかになったが、犯罪組織は慈善家を装い難民キャンプにも出没し、子どもたちを連れ去り、国連の定義のなかでも「最悪形態の人権侵害」の人身売買という商売の道具にしている。私たち日本人に何ができるのか。まずは、貧困の実態を正確に把握しなければならない。そこで生まれた自身の感情を制御すべきではない。テクノロジーの進化で、誰もが声を上げ、その声を世界中に伝えることのできる世の中になったはずである。
特定非営利活動法人世界開発協力機構(WSD)
https://www.wsd.or.jp/