「日本株式会社」への提言

神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 服部 泰宏氏 ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長  源田 泰之氏 株式会社人材研究所 代表取締役社長  曽和 利光氏 株式会社リンクアンドモチベーション エグゼクティブ ディレクター 樫原洋平氏

自社にふさわしい人材を採用するには、どうすればいいのか──これまで人事担当者の経験や勘によって策定されていた採用基準も、近年はビッグデータやAI(人工知能)といったテクノロジーによって、定量的に判断できるようになっている。
 
昨今、人事関連の業務をテクノロジーの技術で効率化する「HR Tech」の可能性がさまざまなところで議論されているが、果たしてデータは採用をどのように変えるのか。

2018年8月2日に行われた「HR Committee Conference」では「データで採用はどう変わるのか」をテーマにパネルディスカッションを実施。採用領域における有識者であるソフトバンク株式会社の源田泰之さん、株式会社人材研究所の曽和利光さん、神戸大学大学院 の服部泰宏さんが持論を展開。採用におけるデータ活用の有用性について語られた。

■登壇者
ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 採用・人材開発統括部 統括部長  源田 泰之さん
株式会社人材研究所 代表取締役社長  曽和 利光さん
神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 服部 泰宏さん
 
■モデレーター
株式会社リンクアンドモチベーション エグゼクティブ ディレクター
樫原洋平


採用におけるデータ活用の有効性と落とし穴
 
樫原:弊社が展開する組織改善クラウドの「モチベーションクラウド」では「適切な採用・配置」のスコアが最も低い項目の一つとして上がっているのですが、組織人事領域で採用課題の解決は重要性が増していると感じます。このような状況下でここにご参加頂いている方の中で採用にデータを活用することに異論がある方はほとんどおらず、採用へのデータの活用法や活用による変化に興味関心があると思います。今回はそこに焦点を当てて進めていきます。まずは服部先生から、データ活用の全体像についてお話いただければと思います。
 
服部:ずっと経営を見てきた人間として、経営的な側面からお話したいと思います。今、経営学で話題になっているのが「エビデンスベースドマネジメント」です。これは、医学の「エビデンスベースドメディスン」からきているのですが、医師の意思決定の根拠には、データで記されたバックボーンが必要だという意味です。
 
医学の世界では、エキスパートの経験からくるジャッジよりも、世界規模の臨床実験で得られたデータや、そこから導き出された結論が重要になっています。一方で、採用は、まだまだ経験が重視され、経験からくる「こういう学生は取った方が良い」というバイアスが絶対にあります。データにはこうした経験に寄った考え方を、相対化してくれる役割があると思っています。
 
ただし、私は「経験ではなくデータで判断しましょう」と言っているのではありません。実はエビデンスベースドマネジメントで大事なのは、「知っていることに対して謙虚になる」ことなのです。経験とデータはどちらも大事で、それを上手く組み合わせて、相対化することが重要だと思っています。

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樫原:ありがとうございます。では続いて、源田さんにお話を伺いたいと思います。ソフトバンク社ではデータで採用を変えることに関して、まさに最先端にいらっしゃると思いますのでその辺りの具体例をお聞かせください。
 
源田:新卒の採用候補者は全体で43〜45万といわれており、その中でソフトバンクへのプレエントリーは約3万件あります。通常であれば、母集団である3万人からソフトバンクに合う人を探すのですが、私たちはその方法を大きく変え、43〜45万人いる就活生のなかから、今ソフトバンクに興味が無くても、入ってもらえれば活躍するであろう人を採りに行く「攻めの採用」に取り組んでいます。
 
しかし、採用担当者の数は増えませんので、直近では、エントリーシート選考でのAIの活用や、学生からの問い合わせのchatbot対応などで効率化を進め、捻出した時間を43〜45万人の就活生へのアプローチにあてています。現状はPDCAを回しながら、活動を進めている段階ですので明確な答えはありませんが、これらの活動から二つの事例を紹介したいと思います。
 
まず一つが、ハイパフォーマー分析です。社内のハイパフォーマーをピックアップし、入社前の面接やSPIの評価、高校時代の部活動や趣味などをできるだけ細かくデータ化し、現在の活躍度との相関性を分析しています。その相関性も参考にして当社にふさわしい人材像を見つけています。
 
二つ目は採用方法です。選考中の離脱の原因を、分析し、改善しています。例えば一次面接合格者の二次面接への移行率が低い場合、選考後の合格連絡が遅いのか、あるいは次の面接までの時間が長いのかなどを、データをもとに分析します。地味な作業ですが、毎年PDCAを回して改善しています。



樫原:曽和さんは長年データと向き合われ、良い面も課題も御存じと思います。ここではあえて、データ運用の注意点や落とし穴をお話いただきたいと思います。
 
曽和:私自身もデータ推進派ですが、あえて問題提起すると以下の大きく三つの課題があります。
 
1)データの不完全性
2)多様性と創造性への影響
3)倫理的な問題
 
まず「データの不完全性」について。先程のお話に出てきたハイパフォーマーに関することはすぐデータを取れますが、例えば退職者のデータを取ろうと思えば、数年待たなければなりません。データを完全に揃えるには時間がかかり、すぐに出る数字はn数の少ない不完全なものになる。これが「データの不完全性」です。
 
次に「多様性と創造性への影響」ですが、これは画一化による危険性を指します。例えばあるタイプが、ハイパフォーマーだとわかると、当然それに従い母集団を順化させ、一定のタイプの学生を多数採用します。ただ、時代や事業が変化した場合、その集団が、そのままハイパフォーマーになれるかどうかはわかりません。また画一化された集団からは、多様性から生まれるとされる創造性が出てくるかどうかも疑問です。
 
最後の「倫理的な問題」は、納得度の問題です。例えばESのスクリーニングにAIを活用した場合、データによってAIが判定した結果は、学生側からするとなんとなく納得のいかない結果であり、人事から見ると責任感のない判断となる。そういう不具合もあるのではないかと考えています。データを活用していくには、このように乗り越えなければならない課題が、まだまだあると考えています。

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表面的なデータに飛び込むのは危険。データと直感のバランスはどうすべきか?
 
樫原:ここからは、会場の皆様の声もいただきながら進めさせていただきます。
 
会場:データ採用を考えた時のチームビルディングは、データサイエンティストなのかマーケティング人材どちらなのでしょうか。
 
樫原:皆さんはどういう人材を集めるべきだとお考えでしょう。
 
服部:チームビルディングは、すごく大事な視点だと思っています。先程、エビデンスベースドメディスンの話をしましたが、それを進める上で大事だったのは、誰がコミットメントするかということでした。数字を扱えるなど、単純にリテラシーの問題もありますが、一番のポイントは「絶対にやらなければならない人」を決めることだと思います。
 
源田:個人的な意見ですが、まずマーケティングは絶対に必要だと思っています。もう一つは、学生に興味を持ってもらうことが大切なので、学生目線で語れるクリエイターの存在も重要です。そして最後に重要なのがリクルーター。リクルーターの人間的魅力は、「この人と働きたい!」という最後のひと押しになります。これらを一人でカバーするのは難しいので、その意味でも、採用はチームのバランスがすごく重要だと思いますね。

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樫原:「人を見るというところで経験に頼りがちな上司に対してデータを利用するために何をすべきか」という意見もあります。曽和さんはコンサルタントをされているなかで、どういうアドバイスをされていますか?
 
曽和:これは、パーソナリティーなデータ活用についての意見だと思うのですが、リアルな話をすると、実際にSPIを受けてもらって、「まさに俺はこういうタイプだ」と実感してもらわない限りは、懐疑的な方を乗り越えるのは難しいと思います。ただ、上層部にいけばいくほど、本当に相関があるなら、食いついてくると思うんです。だから彼らが重要視している、売上や利益にかかわること、例えばそれにまつわるKPIなどとの相関を、どれくらいデータをもって示せるかがポイントになってくると思います。

 
樫原:服部先生が、アカデミックな立場からこういうご相談を受けたときはどうされますか?
 
服部:データを介した議論の土俵に一回引っ張り出すことだと思っています。データ分析を進められた会社でも、最初から一点突破で変えてきたわけではなく、よくわからないけれども、まずは一度データからどういう傾向値があるか見てみましょうというところからスタートしています。データを用いて、まずは自分たちの経験を一度見直すなど、非常にニュートラルなテイストの会議を繰り返すところから攻めていくのが、大事だという気がします。
 
樫原:「データを取ったが、がっかりした」という会場からの意見もあります。データと直感との違いが出た場合の対処についてのお考えを聞かせてください。
 
服部:データだけを見ていると、全体の傾向と離れたところに突然、理想的な集団が現れることが無いわけではありません。ただそこに飛びつくのは危険です。そこには、例えば「たまたま優秀な面接官がいた」など何らかの理由があります。目の前の結果をそのまま受け取らず、良く考えることが重要なのではないかと思います。
 
曽和:人事としては、経営者にデータをどこまで見せるのかは、気をつけたほうが良いと思いますね(笑)。データ分析に詳しくない経営者に対して、結果だけを見せるのは、けっこう危ないと思います。

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仮説を立てて分析し、関連性が見えたときにデータは情報になる
 
樫原:最後に、私から一つ質問です。今回の日本人事戦略委員会は、いわゆる「アクション」を大事にしています。その意味で、データで採用を変えるために、明日から何をすれば良いのか、皆さんの推奨アクションを、メッセージとしていただいきたいと思います。
 

曽和:データを揃えるのは時間がかかると思うので、過去のものを漁ってでも、集められるだけのデータを集め始めることが大切だと思います。特に退職者のデータは、今からしか取れませんので、まずデータ集めから始めてください。
 
源田:私もデータ集めが大事だと思います。あともう一つは活用方法のところ。掘り下げすぎるとわけがわからなくなるので、ある程度の相関性が見つかれば、その実用性を一回考えてみるのも大切だと思います。ある程度は思い切ってアクションに繋げないと、データだけひっくり返しても意味がないと思っています。
 
服部:アクションとは少し違うかもしれませんが、仮説を持つことがすごく重要だと思っています。これとこれは繋がっているんじゃないかとか、意外とこういうことが影響しているんじゃないかとか、そういう仮説をリスト化することが大事です。その仮説が、どんなデータを集めるかに繋がっていきます。
 
ちなみにデータは辞書的にいえば、数字の羅列です。何の意味も持たない。そこに仮説を立てて分析をし、関連性が見えた時に、初めてデータは情報に変換されます。そう考えていただくと、仮説がいかに大切かわかっていただけると思います。
 
樫原:ありがとうございます。

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