十余年にわたり、銀座7丁目で存在感を示してきた「モンブラン銀座本店」がリニューアルした。シックで、白い星を象ったブランドエンブレムもまぶしいその佇まいの奥には、ナチュラルでオーガニックな空間が広がる。訪れてあらためて感じるのは、モンブランで、「書いてみたい」という渇望だ。
外観はそう大きくは変わらない。だが、内装は大きく様変わりした。世界でも3店舗しかないという〈インクバー〉があるという話を聞き、楽しみに足を運ぶ。インクバーとは、30種以上もあるモンブランのインクからお気に入りを選ぶことができ、同時に、8種の基本的なペン先と2種の特殊なペン先を試すことができるものだ。(上記写真)
そして私たちForbes取材陣を迎えてくれたのは、リニューアルに合わせて来日したモンブランCEO ニコラ・バレツキーだ。
「まず、リニューアルにあたり、誰もが入りやすい温かみのある空間を目指しました。しかしそれ以上に、ここではモンブランが提供しているさまざまなプロダクトの魅力を実際に体験していただくことができるのです。特筆すべきは、全世界600以上あるブティックの中でも3店舗しかないインクバーが置かれていること。さまざまなペン先やインクを試すことができる新しい体験の場は、私たちだからできること。また、レザーグッズに関しても銀座本店ならパーソナライゼーションも可能です。このような体験型の店舗となることで、数あるラグジュアリーブランドの中でも、ひとつ上のステージに上がれたと自負しています」
ニコラ・バレツキー|モンブランCEOインクバーでは専門のスタッフがその人の書きグセや筆圧などを鑑定し、理想の万年筆選びのサポートをしてくれる。
「自分の書きグセを知るだけでも、面白い経験が得られると思います。とくに私の場合は字を書くことが苦手なので、自分にぴったり合ったペン先が必要なんです。パーソナライゼーションすることで、以前よりも綺麗な字で書くことができるようになりました(笑)」
デザインにばかり目が行きがちだが、自分にあったペン先を選ぶということは、筆記具における究極のパーソナリゼーションといえる。自分のクセを知ること、そして最適なペン先を選ぶことの大切さは、体験することでしか得られない。
「どんなに美しいクルマに乗っていても、エンジンが貧弱であれば素晴らしい体験を得ることができません。その逆もまた然りです。つまり、お気に入りのデザインを選ぶのと同じように、自分にとって最適なペン先を見つけることは重要なのです。さらに、お客さまには、このインクバーでくつろいでいただき、万年筆というツールがいかに滑らかで書きやすいかも再認識していただきたいですね」
お気に入りのデザインを選び、そこに最適なペン先を装着。最後に、自分だけのインクカラーを選べば「書く」という行為が特別なものに生まれ変わる。自分の色を持つということは、香水を選ぶような自己表現のひとつでもある。
バレツキーからのメッセージ。なんとも味のある書体だ。
“書くという美学のために作られた、我々の革新的なインクバーのあるモンブラン銀座にお越しください”インタビューを行った筆者の手元には、デジタルペンとデジタルデバイス。少々気恥ずかしくなったが、それでも万年筆は数本持っているし、実際に必要なシーンも多い。書く喜びや気持ちよさももちろん忘れてはいない。何より、30歳以上の方なら共感いただけるだろうが、いい万年筆を1本持っておきたいというのは、ビジネスパーソンが自己実現の階段を登る時に感じる、共通のステップだ。
「さまざまなデジタルデバイスが登場し、私たちの生活はより便利になっています。しかし、デジタルの対局にアナログがあるとは考えていません。両者は共存していくと考えています。また、お客さまの感覚も進化しており、忙しいビジネスパーソンの持ち物も変わってきました。私も最近はビジネスブリーフではなくリュックサックを使うようになっていますから。銀座本店では、スマートウォッチやトローリーケースなど、アクティブに働くビジネスパーソンが必要とするものがすべて揃います。筆記具を探しに来られた方が、自分らしいスタイルをトータルでコーディネートできる。そういった体験ができるのも、このブテックの強みです」
近年は、完全自社製のムーブメントを搭載した高級時計や、最高品質を誇るレザーアイテムなど筆記具以外にも幅広いプロダクトが揃うモンブラン。感度の高いビジネスパーソンならその品質とデザインは周知のことだろう。「書く」という起点から広がる世界観は同社の強みだ。
最後に、日本にブティックを構える意義を訊いた。
「日本には書道の時代から、長く深い筆記具の歴史があります。そんな伝統のある国に、私たちは西洋における最高品質の筆記具を知っていただきたいと思いやってきました。一方で、日本に来るたびに新たなインスピレーションを得ています。その一例として、リニューアルした店舗の壁紙は和紙をイメージしているのです。これは日本だけでなく世界で展開されていきます。日本は私たちに新たな発想を与えてくれる国でもあるのです」