超AI時代の暮らし方について未来の住空間を考える対談型カンファレンス【blueprint】を連載。

シンギュラリティを迎える未来、人間に残されるものは何なのか。アートとビジネスの融合を目指す気鋭のコンサルタント・山口周と現代の魔法使い・落合陽一が示唆するのは感性、美意識、好き嫌いだという。AIにはわからないメッシュされる以前のアナログデータ。そこに意識を研ぎ澄ますことで、人間らしい暮らしと幸せを手に入れられると。ともするとデジタル方向に振れてばかりの現代で、あえて注目したい侘び寂びの美学のなかに、現代の日本人が失いかけている強力な武器がある!


あらゆる場所にAIが進出する未来。
人間に残された最後の砦は感性だ

落合陽一(以下、落合):アートにはどのように関わるようになったんですか?

山口周(以下、山口):母がピアノを弾いていて、その影響でずっと作曲をやっていました。そのまま芸大を目指したのですが、うまくいかなくて、大学から美学・美術史を学んだんです。それで就職のタイミングで「アートじゃ食えないぞ。でも世の中にはアートで高い給料をもらえる会社がある」と聞いて入ったのが電通。でも普通にアートに縁のない営業の仕事に回されまして。でもその中でビジネスも面白いと思うようになったんですね。そしてよく周りを見回すと、戦略で勝っている企業よりも、圧倒的に感性で勝ち抜いている会社が多かった。感覚を優先している会社の方が、これからの時代は強いんだろうなと肌で感じて。感覚、感性というものを突き詰めれば、やはりアートにたどり着くわけです。それでビジネスとアートを結びつけることができないかというコンセプトでコンサルティングの仕事をしているのです。

落合:海外でもMBAよりもデザインなどのアート方面を重視するようになってきましたね。

山口:潮目が変わったわけです。

落合:日本でアートというと、たいていの人は「僕は絵が描けない」「楽器ができない」と言うんですよね。でも海外で重要なのは、アートは鑑賞眼だということ。描ける、弾けるは関係ない。鑑賞眼を大事にしない社会はつまらないですよ。すべてロジックに走ってしまう。

山口:教育の現場がそうですね。先生があらかじめ背中に正解を隠していて、それを当てなさいという。僕はアートのワークショップもやるのですが、10作品から好きな絵を選んでくださいと聞くと、みんな悩んでしまう。せめて制作された年代などのヒントをくださいって。いやいや、自分の感性で好きな絵を選べばいいだけなのに。すぐに情報を欲しがってしまうんですね。



落合:美しい絵に、決まりなんてないんですけどね、本当は。

山口:外側の物差しよりも自分の内側にある物差しを大事にした方がいいんですよ。ロジカルシンキングやMBAなどが流行していたのは10年前。

落合:必要なのはこだわりなんですよね。自分の感性を徹底的に突き詰めること。これからのAI時代に必要なのは。

山口:僕はよくラーメンで説明します。ほとんどの人が、どんな麺の硬さが良くてダシは何がいいなど、さまざまなこだわりをもっています。どんな絵が好きかは答えられなくても、好きなラーメンに関しては饒舌なんです。これはその背後に権威主義があるからでしょうね。だから畏れ多くて言えない。

落合:言語化すればわかるんですけどね。自分はどんなラーメンが好きかということがしっかりわかれば、その他のラーメンに当てはめることができる。これと同じことをアートでもすればいいだけ。それが美意識。でも頭の凝り固まったおじさんたちにどのようにそれを説明するのですか?

山口:やはり言語化ですね。作品を観て、湧き立つ感情を言葉にするプロセスで好き嫌いが出てくるわけですから。そしてその好き嫌いこそがこれからのAIの時代で人間に残された最後の競争資源だと思うのです。

日本人には微細な違いを理解する
侘び寂び(わびさび)のセンスが本来あった

落合:僕は山本耀司(Yohji Yamamoto)の服が好きなのは、"侘び寂び"があるから。あえてプリントが剥げている部分があったりする。僕のiPhoneケースは、自分でつくった墨絵の切れ端に銀箔を塗っている。これこそ使えば使うほど味が出てくる美学なのです。そしてこれを美しいと思う自分の感覚を信じている証拠なのです。でなければアート作品なんてつくれません。そもそも日本人は茶道具など、使い込まれたものを愛する素養があります。服にしてもつぎはぎの文化があるからこそコム・デ・ギャルソンも山本耀司も生まれたのだと思います。

山口:アラン・ケイ(計算機学者)は、日本に訪れたとき、国立博物館で印籠を見て非常に感動したそうです。何でそんな昔にこんな美しいものがつくれたのかって。それなのに何で彼らがつくる携帯電話はアグリーなんだって(笑)。スティーブ・ジョブズに印籠の存在を教えたのは彼らしいです。初期iPhoneのデザインは印籠がベースになっているから丸みを帯びているのですよね。印籠の美しさを解するセンスは海外のものになってしまっているけれど、元々のリテラシーを日本人が取り戻せばまだ可能性はあると思うのです。

落合:それをどう現代日本に接続するかの問題ですよね。



山口:例えば薄暗い茶室でこそ映える金箔の蒔絵。"歌舞(かぶ)く"美学。

落合:そろそろそれをいまと接続する、現代の岡倉天心が必要な時代にきていると思いますね。侘び寂びを再定義する。昭和時代の建築物の廃屋の塗装が剥げた部分が美しいことを教える人が。

メッシュで単純化されてしまう現代。
人間までが単純化されてはいけない

山口:西洋音楽をベースとする通常の楽音は12個の音階。ところがこれがトルコに行くと48個に分かれている。西洋音楽の平均律では一オクターブを12に分ける、つまり半音の周波数は2の12乗根になるわけですが、例えばトルコの伝統音楽では一オクターブを48に分けます。そうすると西洋音楽では誤差の範囲となる同じ音が、トルコでは違う音ということになります。CDになる際にカットされてしまうけれど、古いガット弦を張ったバイオリンは現代のスチール弦のものとは違う倍音をもっている。

落合:世の中はデジタルに変わり、メッシュに分けて単純化されてしまうけれど、本来の音を聞かなくてはならないんですよね。それが人間。

山口:シンギュラリティが近づいていると言われている世の中、人間でいるメリットをもっと考えるべきなんですよ。

落合:古いものに美を見出すことができれば、単純にメルカリやヤフオクの見方も変わりますよ(笑)。新車よりも丁寧に乗られた中古車の方が価値が高いということもあり得るのです。住宅は中古になればなるほど価格が下がるけれど、香港は安くならないのです。

山口:もう一度人間は、自分の好き嫌い…わがままと言ってもいいかもしれないけれど…こだわりを取り戻すときです。好きでも嫌いでもないような仕事はAIに任せて、人間に残された感性、美意識で生きるべきなのです。

落合:もっとフィジカルなものを大切にする、それこそがシンギュラリティを迎える未来で必要になるものですよね、きっと。




山口 周
1970年生まれ。著作家、コンサルタント。コーンフェリー・ヘイグループのシニア・クライアント・パートナー。「経営におけるアートとサイエンスのリバランス」「組織の創造性」が研究領域。美学、美術史というアートを学んだ背景で、経営科学と美学の融合を目指し、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』 (光文社新書)など、文筆活動も多い。

落合陽一
1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)など。個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」「山紫水明∽事事無碍∽計算機自然」(東京表参道.2018)など

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