キャリア・教育

2017.01.30 09:00

心理学と証券会社、両方経験したから埋められる「隙間」がある

櫻本真理 株式会社cotree代表取締役 (photograph by Akina Okada)

会社勤めをしていた頃、突然、眠れなくなった。体調も優れず、毎朝、早くに目が覚めてしまう。

「うつ病ですね」

1カ月経って、精神科のクリニックに行くと、医師にそう告げられた。「薬を出すので、また来てください」。診察時間は3分程度。いったい自分の何を分かってくれたのだろう?

「眠れなくなるに至った原因にアプローチしないまま、症状だけが切り取られてしまった。それが、問題意識を持ったきっかけです」

オンラインカウンセリングサービス「cotree」の代表、櫻本真理はそう話す。調べていくにつれ、制度に問題があることも分かってきた。医療の現場では、心理療法の専門家によるカウンセリングが活用されていない、という現実があった。

cotreeではスカイプやメールを使い、臨床心理士などがカウンセリングを行う。1セッション45分、4,000円から。チェックリストを使い、ユーザーとカウンセラーのマッチングを行うことから始める。

「健康情報を探す人の約8割が、ネットに頼っている。でも、そこから対面のカウンセリングを受けようと行動に移すまでには、大きな隔たりがある。その隙間を埋めたい」

高校時代に留学したアメリカで、心理学に出合った。臨床心理学の第一人者、河合隼雄の本を読み、己を知り、他人を理解することに面白さを感じた。かつて河合が教鞭を執っていた京都大学の教育学部に進学するも、入社したのはなんと証券会社。

「心理学の世界って、凄く奥深くて分かりづらいんです。臨床心理学を勉強しても、よく理解できなくて」

少しでも“分かるもの”を突き詰めていったら、認知心理学や行動経済学、最終的には市場心理に辿り着いた。ビジネスの価値基準は「お金」だけ。凄くシンプルだ、と感じた。

だが、起業し、心の世界に戻ると、分かりづらさこそがやはり面白いのだ、と気づかされた。治療のあり方も、生き方も人それぞれ。人の世界観の数だけ治療法がある。だからこそ、ユーザーとカウンセラーの相性を見極め、両者を繋ぎ、その人にとっての“ゴール”を見つけたい。

いま、人間関係や仕事が発端になる悩みや不安を持つ人々が、ユーザーの半分以上を占める。

「うつは、環境と自分との不調和」と櫻本は言う。自分が悪いのではなく、環境のせいかもしれない。不調和が明るみになったのなら、積極的に変えていく機会にすればいい。

「『心理』と『ビジネス』、『分かりにくいこと』と『分かりやすいこと』。両方の価値を体験したからこそ、あいだを繋ぐ役割を担っていきたい」

櫻本真理◎1982年生まれ。ゴールドマン・サックス証券などを経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する「cotree」を設立。採用するカウンセラーは、応募者10人に対し、1人程度。海外に拠点を置くカウンセラーも多い。

古谷ゆう子 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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