Indexは毎秒81分の作業映像を収集、アプリは112カ国に広がる
フィギュアAIが2026年8月に始めたIndexは、世界各地の参加者に家事などの作業を自分の視点で撮影してもらい、対価を支払う仕組みだ。ロボットの学習データを確保するため、事実上、単発の仕事を集めるサービスを自ら立ち上げた。なぜ外部のデータを買うだけでは済まなかったのか。
「データを買おうとしたが、うまくいかなかった」とアドコックは語った。2026年10月の会議で示されたIndexの取り込み速度は、人間の作業映像で毎秒81分相当という。1時間では4860時間分、1週間では約81万6000時間分になる。
2026年8月下旬の開始時は毎秒30分相当だったため、取り込み速度は約2カ月で2.7倍になった。アプリのダウンロード数は26万4000回から126万回へ、収集動画は1600万本超から3750万本へ増えた。会議直前の1週間だけで21万人超が少なくとも1本を投稿した。いずれも桁外れの規模だ。
他社の累積収集量に約2週間半で並ぶ規模
ロボット学習向けデータ企業Maxinsightsは、2026年10月に3000万ドル(約47億4000万円)のシード資金を調達した。同社によると、6カ国で働く5000人超の委託スタッフから、累計200万時間超の映像を集めた。フィギュアAIが会議で示した取り込み速度なら、同じ量に約2週間半で達する。
ロボット向けAIを開発するGeneralist AIは、現実世界で収集した50万時間分のデータで「GEN-1」を学習させた。ロボット向け基盤モデルを手がけるNature Willは、人間の視点で撮影した100万時間超の映像を使った。手の動作を学ぶ500億パラメーターのモデル「Natura-1」の訓練に利用したという。
フィギュアAIは、会議時点の速度を維持すれば、約9日で100万時間分を取り込む計算だ。Maxinsightsの袁宇光CEOは取材に対し、人間に近い幅広い適応力をロボットに持たせるには「1000万時間以上の多様なデータ」が必要かもしれないと話した。フィギュアAIなら約12週間でその量に達する。フォーブスの編集者に見つからずに済むなら、何度でも繰り返したい数字だ。
もう1度だけ繰り返そう。会議時点のペースなら、約12週間で1000万時間に達する。
アドコックは、他社全体より多くのデータを集めていると主張している。並外れた規模を考えると、説得力があるように見える。フィギュアAIは、ロボット向けデータの収集に取り組む約50社を追跡しているという。「現時点では、毎週、市場全体から買える量を超えるデータを生み出している」とアドコックは語った。
大量に集めた映像がすべて学習に使えるとは限らない
Indexが示しているのは、未加工の映像を取り込む速度だ。データを整理した後、実際に学習へ使える映像がどれだけ残るかは分からない。スマートフォンで撮影した映像1時間分と、ロボットから収集する動作データ1時間分では、含まれる情報が異なる。
人間を撮った映像には、物体に加えた力、回転させる力を表すトルク、触覚などの情報がない。ロボットを遠隔操作して得た高品質な1万時間分のデータに、正確なラベルを付けた方が、雑多な動画100万時間分より価値が高い可能性もある。フィギュアAIの基盤チームは全データを整備し、内容を示す注釈を付けている。どれほどのデータが処理後に残るのかを知るのは、社内関係者だけだ。
データ収集に週約13億円、支出を支えるスケーリング則
大量のデータを集める費用も膨大だ。アドコックは「前週はデータに推計810万ドル(約12億7980万円)を費やした」と話した。同じペースが1年続けば約4億2100万ドル(約665億1800万円)になる。支出は今後さらに増える見込みだ。
810万ドルの大半が投稿者への支払いだと仮定すると、収集した動画の1時間当たりのコストは約10ドル(約1580円)になる。ある業界推計では、一人称視点の映像は1時間当たり2~5ドル(約316~790円)で取引される。フィギュアAIは収集量と多様性を確保するため、割高な単価を支払っている可能性がある。
「会議後12カ月間にデータへ投じる額は、大半のロボット企業が調達してきた資金の総額を上回る」とアドコックは語った。実際、Maxinsightsが調達したシード資金は、フィギュアAIがデータに投じる4週間分にも満たない。セコイア・キャピタル主導のシリーズBでロボット学習用データ企業Meckaが調達した6000万ドル(約94億8000万円)は、約7週間分にすぎない。
2026年1月に14億ドル(約2212億円)を調達したSkild AIのような有力企業を除けば、多くの新興企業にはデータだけに年4億ドル(約632億円)を使う余力がない。膨大なデータを使ってAIを学習させる計算資源まで確保するのは、さらに難しい。アドコックは、競合が容易に追随できない投資規模で、データと計算資源の両面に参入障壁を築こうとしている。
Helix 2.5の実験が示した、学習量と家事の成功率の関係
巨額の投資を正当化する根拠が「スケーリング則」だ。2020年、研究者は大規模言語モデル(LLM)について、学習用データ、計算量、パラメーター数を増やすと、性能が予測可能な形で改善することを示した。
アドコックによると、フィギュアAIは「Helix 2.5」の発表に合わせ、人間の動作を人型ロボットに学習させる場合のスケーリング則を初めて示したという。会社が公表した実験では、事前学習の有無が異なる2つのモデルに同じ作業データを与えた。学習時には見せていない住宅30軒で、部屋の片づけ、タオルを畳む作業、ベッドメイクを検証した。事前学習なしのモデルの成功率は9%だったが、Indexのデータで事前学習したモデルは56%で、約6倍になった。
事前学習データを増やすと、モデルの予測と正解のずれを示す「損失」がほぼ直線的に小さくなり、評価スコアも改善した。アドコックは、グラフが直線でなければよかったとも語る。曲線を描けば、追加データにかかる費用が時間とともに下がる可能性があったが、実際にはそう見えないという。
ロボット分野でスケーリング則を示した企業はフィギュアAIが初めてではない。Generalist AIは2025年、物を扱う動作のデータ27万時間分を使った「GEN-0」の研究結果を公表した。Dyna Roboticsとエヌビディアも、人間の動画が増えるにつれてロボットの性能が予測可能な形で向上すると報告している。
業界各社は同じ方向を向いているように見える。アドコックが目指すのは、資金を投入するほど賢いロボットが生まれる、自動販売機のような事業構造だ。
約5530億円から始まるNscaleとの計算資源契約
フィギュアAIがクラウド事業者Nscaleと結んだ計算資源の契約も、この考え方に基づいている。2026年9月に公表された契約では、まず35億ドル(約5530億円)の利用を約束し、60億ドル(約9480億円)超への拡大を目指す。2027年後半から米テキサス州西部で、エヌビディアの計算基盤「Vera Rubin」を使う計画だ。
アドコックは2026年10月の会議で、既存の計算能力を約1週間半で倍増させると説明した。将来的には「現在の大規模言語モデルが使うものより大きな計算クラスター」が必要になると考えている。


