対策3:起訴・家宅捜索・制裁、北朝鮮のIT労働者網に代償を払わせる
政府と業界は、法執行、制裁、外交圧力、攻撃型のサイバー作戦によって、北朝鮮のこうした活動そのものに代償を払わせることができる。
米司法省は10月13日、中国を拠点とする10人などを起訴したと発表した。起訴された人々は、北朝鮮のIT労働者が盗んだ身元やでっち上げた身元の書類を使って、米国の70社を超える企業でリモートワークの職に就いた手口に関わったとされる。IT労働者の収入は、制裁対象となっている北朝鮮の組織に流れたとみられている。
北朝鮮のIT労働者は、企業が支給したノートパソコンを米国内の協力者の自宅に置かせ、国外から遠隔で操作して、米国内で働いているように装う。こうしたパソコンの置き場所は「ラップトップファーム」と呼ばれる。
FBIは9月、テキサス州で、ラップトップファームとみられる40を超える住宅を捜索し、ノートパソコンとKVM機器(パソコンを遠隔で操作するのに使う機器)を計約187台押収した。米財務省外国資産管理局(OFAC)も10月28日、北朝鮮のIT労働者による不正就労の仕組みに関わったとして、10人と1団体を制裁対象に指定した。
現金化を担う中国の仲介業者を閉鎖へ、攻撃型サイバー能力も活用
TRMの北朝鮮に関する分析によると、盗まれた資金を割安で買い取り、その後の資金洗浄の多くを担っているのは中国の業者だ。取引所を通さずに相対で暗号資産を売買する店頭(OTC)業者や、当局の規制の外で金融を担うシャドーバンキングの仲介業者である。
中国政府に外交圧力をかけてこうした業者を閉鎖させ、業者と取引するトレーディングデスクや銀行に制裁を科せば、盗んだ暗号資産を実際に使えるお金に換える現金化の段階を狙い撃ちにできる。
米国とその同盟国は、攻撃型のサイバー能力も使うべきだ。TraderTraitorの基盤、偽の採用担当者として近づくためのアカウント、資金洗浄の道具を標的にし、この部隊が与える損害に見合うだけの代償を払わせるのである。
金与正が自ら否定、評判を気にする北朝鮮には名指しが急所を突く
11月2日には、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)が自ら談話を出し、北朝鮮の犯行だとするFBIの発表を否定した。韓国統一省は、金与正が自ら否定したことを前例がないとし、北朝鮮が国際的な評判を気にしている表れだと受け止めた。
北朝鮮が評判を気にしているのなら、そこが急所になる。窃取のたびに背後にいる人物を名指しし、制裁を科し、起訴していけば、その急所を突く圧力になる。
バイナンスは他に攻撃57件を発見、次の「木馬」を防ぐ3つの対策
トロイの人々が木馬を神への捧げ物だと思って受け入れたように、バイナンスのエンジニアは、課題を好機だと思って受け入れた。北朝鮮は、たった1つの偽の求人に4カ月を注ぎ込み、63億6000万ドル(約1兆49億円)を手にした。バイナンスは2026年、北朝鮮によるとみられる攻撃の試みを、この他にも57件見つけている。
次の試みが今回と同じ結末になるかどうかは、3つの対策で決まる。守りを固めたシステム、リアルタイムの連携、そして北朝鮮への攻勢による圧力だ。


