わずか2週間の間に、OpenAI、Google、Workdayの3社はそれぞれ企業顧客に向けて売り込みを行い、企業のAIエージェントが選定・統制され、支払いがなされるコントロールポイントになろうと競い合った。だが、エージェントがエラーを起こした際に誰が責任を負うのかという問いに対して、3社のいずれも明確な回答を避けている。ベンダー側は今なお、人間(ヒューマン・イン・ザ・ループ)に責任を押し付けているのが実情だ。しかし、これら巨頭の領域拡大は、すべての独立系AIスタートアップに同様に辛辣な問いを突きつけている。「次のロードマップでプラットフォームに吸収されない製品として、自社は何を売るのか?」という問いだ。
先月アムステルダムで開催されたカンファレンス「HumanX Amsterdam」で、筆者は会場の創業者や幹部たちにこの問いのバリエーションを投げかけた。フロンティアラボが無制限に近い計算リソースとモジュール化された知能を持っているのなら、あらゆるソフトウェア分野を自ら掌握する代わりに、なぜトークンを安価に販売しているのだろうか?
取材前の筆者の懸念は、その正直な答えがスタートアップに残された余地を極めて限定的なものにするという点にあった。AIモデルがエンタープライズ・システムにおいて最も代替可能なパーツとなった瞬間、巨大企業は周辺ソフトウェアをバンドルし、残りのベンダーをマーケットプレイスの棚に追いやることができるからだ。しかし、アムステルダムで追及した創業者たちの見解は異なっていた。彼らの回答は、より明瞭な境界線を示している。すなわち「プラットフォームに模倣・買収される機能を売ること」と、「プラットフォームが信用を担保して占領できないポジションを保持すること」の違いだ。
フロンティアラボがあえて参入しない理由
HumanXの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)であるステファン・ワイツは、この問いを毎週のように耳にしている。「私自身もベンチャーファンドの投資家なので、週に30社のピッチを受けている」と彼はカンファレンスのメディアブリーフィングで語った。彼はマイクロソフトに在籍していた時代を振り返り、「マイクロソフトに潰されるか? ええ、おそらく潰されるでしょう」と述べた。しかし、大企業はターゲット市場が小さすぎる、ワークフローが専門的すぎる、あるいは導入するための営業人員が不足しているといった理由で、市場全体を放置することがある。「実際には、さらに多くのスタートアップが登場すると考えている」と彼は語る。それらを分かつものは「必ずしもモデルそのものではなく、アクセス可能で利用できるデータである」という。
Mysten Labsの共同創業者兼チーフ暗号学者のコスタス・カルキアス(元Metaのリード暗号学者)は、社内官僚主義と流通の問題を指摘した。「新製品に関する意思決定は、資金獲得を巡って争う人々の階層構造をすべて通過するのに1年かかるかもしれない」と彼は話す。「流通を持たずにUberにどう勝つのか?」。垂直統合型産業への進出は、巨大企業にとっては「実行すれば本業からの脱線になる」とカルキアスは主張する。代わりに、フロンティアラボは自社で構築するのではなく買収を選択すると彼は予想している。「彼らは自ら取り組むのではなく、それを実行している企業をいくつか買収するだろう」
取引件数のデータは彼の見解を裏付けている。Crunchbaseによると、ベンチャー資本の支援を受けたAI企業は9月29日までに他のAIスタートアップを195社買収しており、これは2025年全体の件数を上回っている。今年はOpenAIが10件の買収で首位を走り、Anthropicが5件で続いた。プラットフォームの棚に並ぶスタートアップ同士の統廃合も進んでいる。法務AI企業のHarveyは今年4件の買収を行い、顧客サービス専門のSierraは3件の買収を行った。今月だけでも、SalesforceがAIアナリティクススタートアップのLoopsの買収に合意し、機密コンピューティングスタートアップのOpaqueがライセンスおよび雇用契約により同社チームがAnthropicに参画することを発表した。また、3月の株式買収提案で評価額が45億ドル(約7130億円)に達したDecagonは、買収に関心を持つ企業に対応するため銀行を雇ったと報じられた(ServiceNowは関与を否定している)。
買収は依然として「食い尽くす」手段の一つだ。創業者にとって買収はエグジットであるが、サプライヤーが3年後に存続しているかどうかを検討する最高情報責任者(CIO)にとっては、価格に織り込むべき取引先リスクとなる。
モデルが変わるとき、企業の「記憶」を所有するのは誰か?
企業が半日で別のモデルへと切り替えられるなら、本当のロックインはエージェントがビジネスに関して学習したすべての蓄積データへと移行する。カルキアスは企業がモデルを切り替える3つの理由を挙げている。より優れたモデルが登場したとき、より安価なモデルで十分な役割を果たせるとき、あるいは規制当局や雇用主が使用可能なシステムを制限したときだ。
彼は、Anthropicの「Fable」および「Mythos」モデルへのアクセスが停止された、6月12日から7月1日にかけての今夏のアクセス中断に言及した。「FableとMythosへのアクセスを止められた時期があった。そのとき、自分に何ができるかを想像してみてほしい」とカルキアスは語った。大半のエンタープライズ構成において、モデルの変更は蓄積されたコンテキストを置き去りにすることを意味する。「自分のデータを取り出して別のLLMに移行させることはできない」
Mystenが提示する答えが、データプラットフォーム「Walrus」上に構築され、「Sui」に固定された「Walrus Memory」だ。これにより、ユーザーは同じ暗号化メモリへの委任キーを異なるAIエージェントに付与できるため、モデルを変更しても最初からやり直す必要がなくなる。「鍵をコントロールしているのは自分自身であり、所有する鍵に基づいてメモリを暗号化しているため……誰もそれを止めることはできない」とカルキアスは語った。
Mystenによると、第2四半期のローンチ以来、4800の所有者にわたる5000以上のエージェントが導入され、10月20日時点で20万9000件以上のメモリ保存と450万件の正常な読み出しを記録したという。9月19日以前に最初の書き込みを行った所有者のうち、72.9%が30日以上後に少なくとも1つのメモリを読み出したとしている。これらは有料のエンタープライズ導入に関する第三者監査ではなく、暗号化された読み書きパターンから推測された同社の公表数字であり、エクスポートキー単体では新しいモデルが古いコンテキストを同様に解釈することを保証できるわけではない。それでも構造的なポイントは揺るがない。どの単一モデルメーカーにも、自社モデルから離脱して企業の「記憶」を簡単に持ち出せるようにする商業的理由など存在しないのだ。
大手プラットフォーム自体が売ることに苦戦する3つの領域
ポータブルメモリーにとどまらず、アムステルダムの創業者たちは、巨大プラットフォーム自体のビジネスモデルが障害となる3つの運用上のポジションを明確に打ち出した。
ライバル関係にあるクラウド間の中立性。 オランダのガバナンス系スタートアップDeeployのルーランド・パテルは、同社のソフトウェアを「組織内のあらゆるシステムの上または下に位置するレイヤー」と表現し、「その意味で我々は非依存(アグノスティック)だ」と付け加えた。Deeployは「主権確保のため」、顧客自身のインフラ上に導入することも可能だ。大企業のほとんどは複数のクラウドやモデルプロバイダーを跨いで運用している。マイクロソフトとGoogleの両方を使用している銀行が、一方のベンダーのゲートウェイにもう一方のエージェントを監査させる可能性は低く、エージェントを販売している会社自身が自らの製品を監査するのも不自然だ。Mystenもこのギャップに注目し、特定のプロバイダーから監査ログを切り離す証拠レイヤー「Verifiable Agent Arbiter」の構築に向けて10月6日にGoogle Cloudとの共同取り組みを発表した。Deeployも同様に、ポリシー判断を買い手側に委ねている。「例えば、我々は出力を検閲したりはしない」とパテルは話す。「我々は基本的に、企業自身がその出力を監視するためのテクノロジーを提供している」。真のAIセキュリティリスクが『エージェントが何を知っているか』から『エージェントに何ができるか』へと移行する中、こうした外部チェックの重要性は増している。
ドメインの専門性とワークフローのQA(品質保証)。 WriterのCEOであるメイ・ハビブは、水平展開型のプラットフォームはエンタープライズ・ワークフローがいかに脆弱であるかを軽視していると主張する。「モデルの動作を決めるのはハーネス(制御機能)だ」と彼女は語る。「真にドメインに特化したハーネスがなければ、AIに絶えず教え直すハメになる」。彼女のより厳しい批評はコネクターに向けられた。エンタープライズ統合をうたう多くのベンダーは、時々しか機能しないサードパーティ製コネクターに接続しているに過ぎず、何千ものアカウントで認証トークンの期限が切れた際、エージェントがサイレントエラーを起こすと彼女は指摘する。「価値があるのはワークフローと、そのワークフローのQAにある」とハビブは話し、チームの共有メモリやコンプライアンスルールを規制対象のワークフローに直接符号化するWriterの「Enterprise Brain」を例に挙げた。Google独自のGemini Enterpriseのローンチもその領域の一部を認めざるを得なかった。法務ワークフロー版はプレビュー段階にとどまり、スタートアップのHarveyやOnitをパートナーとして頼っているのだ。
データレイクからではなく、意思決定からスタートする。 Aily Labsの共同創業者兼CEOであるビアンカ・アンゲリナは、AIに意思決定を委ねる前に企業が何年もかけてデータのクレンジングを行おうとする姿を目にしてきた。「そのプロジェクトが終わることは決してない」と彼女は言う。「企業はどこにも文脈を持っていない」ため、Ailyは一般的なコンサルタントに頼るのではなく、財務、サプライチェーン、R&Dなどの現場経験者を雇用している。「何度もコンサルタントを雇おうと試みたが、大半は失敗したと言わざるを得ない」とアンゲリナは話す。「一般的な知識で1回目の会議は乗り切れるかもしれない……しかし、2回目の会議で破綻するのだ」。最初に抽象的なデータカタログを構築するのではなく、Ailyはリアルタイム予測などの具体的なビジネス上の意思決定から着手し、その判断に必要なデータのみを修復する。彼女は、企業が抽象的な状態のまま構築しようとすることで、企業データの意味のマップである「セマンティックレイヤー」において、かつてのデータレイクと同じ過ちを繰り返すと予想している。「誰もそれを完成させられないだろう」と彼女は語る。Googleの新しいKnowledge Catalogは、企業がいずれクラウドプロバイダーからそのマップを購入することに賭けた製品だ。
機能か、それともポジションか?
最も強固な独立系スタートアップでさえ、大手プラットフォームの引力から逃れることはできない。Ailyのディシジョン・インテリジェンスはGoogle Cloud Marketplaceに掲載されており、同社のエージェントはGemini Enterprise内部で稼働している。OpenAIはHarvey、Sierra、Decagonを「Frontier」のパートナーとして指名し、エンタープライズ顧客が同社の新しいマーケットプレイスを通じて32のパートナーアプリケーション上でOpenAIの利用コミットメント金額を消費できるようにしている。プラットフォーム側は自社の棚にドメイン専門家を並べる必要があり、専門家側は企業予算が存在する場所へとアクセスする必要があるのだ。
一方で、プラットフォーム巨頭たちはかつてスタートアップを守っていた人間の専門知識を直接雇用し始めている。AWSは10億ドル(約1580億円)を投じて何千人ものフォワード・デプロイド・エンジニア(現場派遣型エンジニア)を顧客企業に常駐させており、OpenAIも自社のフォワード・デプロイド・エンジニアをFrontierのアカウントに派遣している。ハビブは、エンジニアが「実際にすべての作業を行う」エージェントプラットフォームとWriterを対比させ、ビジネスチーム向けのセルフサービスツールに賭けている。フロンティアラボはそれとは逆方向、すなわち手厚い人力を伴うハイタッチなサービスへと突き進んでいるのだ。
この状況は、買い手と創業者の両者に明瞭なリトマス試験紙を突きつけている。「そのスタートアップが売っているのは機能か、それともポジションか?」という問いだ。ベーシックなコネクター、コストダッシュボード、単一セッションのメモリなどは単なる機能である。これらはすでにGoogleやマイクロソフトのロードマップに組み込まれており、それを売るということは、クラウドの請求権限を握る巨頭と価格競争を行うことを意味する。一方で、モデル間で移動可能なポータブルメモリ、マルチクラウドの中立性、ドメイン固有のワークフローQA、実務者が構築した意思決定ロジックなどは「ポジション」だ。Googleが「Google自身に対する中立性」を説得力をもって約束することはできず、Anthropicが、顧客がOpenAIに持っていきたいと望むメモリの「中立な保管者」になることもできない。
しかし、ポジションもまた侵食される。人事や財務にわたるガバナンスは、独立系スタートアップにとって当然の領域に見えていたが、Workdayが同社のデータ記録に触れるあらゆるエージェントに対して独自の権限管理と監査トレイルを義務付けたことで状況が変わった。中立性もまた買収されうる。Opaqueは先週チームがAnthropicに参画する直前まで、複数クラウドを跨ぐ機密保持・自立型AIをアピールしていたが、一つのラボに吸収されたことで、独立した信頼レイヤーがどうなるのかという疑問を企業顧客に残すことになった。そして、プラットフォームのマーケットプレイスを通じて販売するスタートアップは、胴元の条件に従って販売している。そこではOpenAIが記録上の販売者ではなく、各取引からどれだけの手数料を徴収しているかを公表していない。
アムステルダムから得られた証拠が示しているのは、絶滅ではなく「絞り込み」の構図だ。水面下で着実に成果を上げるエンタープライズ・エージェントと同様に、生き残るスタートアップは、より大きな声を上げて汎用エージェントの開発を競う企業ではないだろう。Googleの新しいワークスペース・エージェントの内部では現在、企業がGoogleのファイアウォールの内側でAnthropicのモデルを使ってタスクを実行し、ユーザー独自のキーに基づくメモリレイヤーからコンテキストを抽出し、同時にオランダのスタートアップのソフトウェアが出力を監査するといった運用が可能になっている。巨頭たちは今後も機能と棚のスペースを買い続けるだろう。生き残るのは、プラットフォーム自体が真に保持することのできない価値を守ることで対価を得る企業であり、サプライチェーンにおける巨頭たちを疑うことに対価を支払われる企業なのだ。



