食品や医薬品を低温で保管・輸送する仕組み「コールドチェーン」が、サイバー攻撃の標的になっている。2026年10月から11月にかけて欧州の食品小売店が相次いで被害を受け、フランスの血液保管施設にも攻撃が及んだ。米国では8月下旬、軍基地内の売店で冷凍庫の異常が発生し、サイバー攻撃の疑いで調査が続いている。欧州では、冷却設備が遠隔操作され、温度が摂氏50度(華氏122度)まで上昇した例もある。食品の腐敗や火災などの二次被害が報告され、ネットワークにつながる設備の深刻な弱点が露呈した。
米軍の少なくとも6基地で冷凍庫に異常、攻撃の疑いを調査
米戦争省(国防総省)は、2026年8月下旬に米軍基地内の売店で発生した冷凍庫の不具合を調査している。サイバー攻撃の疑いもあるが、11月4日時点で米当局は原因を確定していない。少なくとも6基地で、夜間に冷凍設備が霜取り運転へ切り替わるなどの異常が起き、大量の食品が使用できなくなった。
アリゾナ州のFort Huachuca、カリフォルニア州のFort IrwinとTravis空軍基地で不具合が報告された。ワイオミング州のF.E. Warren空軍基地、ロードアイランド州のNewport海軍基地、ミシシッピ州のColumbus空軍基地でも報告があった。陸軍と米サイバー軍の捜査担当者は、欧州で起きた事案についてフランス当局とも協力している。
欧州のスーパーで冷却設備が操作され、食品が大量に傷む
欧州では、冷却設備の制御機器への不正侵入が確認された。2026年10月10日から11日にかけて、フランスのIntermarché、Coopérative U、Carrefour、Monoprixなど、大手小売チェーンの数百店舗が被害を受けた。一部の冷却機器は異常な高温に達し、火災が発生してスプリンクラーが作動したと報じられている。生鮮食品や冷凍食品が大量に傷み、スーパーの経営者らはフランス全体の損失が数千万ユーロ(数十億〜百数十億円規模)に達する可能性があると見積もっている。
11月にも各国で被害、EUが共同対応に乗り出す
11月1日から2日にかけて、欧州の複数の国で冷却設備への新たな攻撃が起きた。スウェーデンのCoopとICA、ベルギーとルクセンブルクのAhold Delhaizeなどで、夜間の温度急上昇や商品の損失が報告された。アイルランドのSuperValu/Musgraveや、エストニア、オランダの店舗でも同様の被害が報告されている。冷却設備の供給業者は、制御システムへの不正アクセスを確認している。
欧州連合(EU)のサイバーセキュリティー機関ENISAは11月4日、10月11日以降の被害と11月1〜2日の新たな攻撃を区別して共同声明を発表した。欧州委員会、欧州刑事警察機構(ユーロポール)、各国のサイバーセキュリティー当局などは、情報共有と対策を急ぐよう求めている。
サイバー攻撃はデータ侵害にとどまらず、物理的な損害をもたらす
攻撃者が冷却設備を操作すれば、食品が傷み、経済的損失が生じる。軍施設でも同様の攻撃が起きれば、補給活動が妨げられる恐れがある。市民の健康にも危険が及びかねない。私は長年、重要インフラの保護や、情報技術(IT)と設備を制御する技術(OT)の接続に伴うリスクを取り上げてきた。IoT(モノのインターネット)の普及で攻撃可能な接点が増える問題も指摘してきた。冷却設備への侵入は、デジタル空間への攻撃が現実の損害に変わることを示している。



