同社が強調していたのは、AIありきでシステムを開発するのではなく、まず解決すべき経営課題を明確にすることの重要性であった。また、AIを導入するためには、既存の業務データを整理し、必要な情報を連携させることも欠かせないという。この考え方は、中小企業にとっても参考になるだろう。
売上の75%にAIを関与させる、タイ金融大手の挑戦
AIの活用を個々の業務改善で終わらせず、経営戦略の中心に位置付けようとしている企業もある。タイの大手金融グループ、エスシービーエックス(SCBX)である。
同社はAIを前提とした企業への転換を進めており、売上の75%をAIが直接関与する形で生み出すことや、従業員の15%を高度なAI人材に育成することを目標に掲げている。同社は銀行業務やデジタル金融など、事業ごとの特性に合わせてAIの導入を推進。また、全従業員を対象に生成AIツールの研修を行うなど、人材育成にも力を入れている。
日本でも、社員に生成AIの利用環境を提供したり、研修を実施したりする企業は増えている。しかし、AIを導入することと、AIによって経営成果を生み出すことは別である。SCBXの取り組みは、AIを情報システム部門だけの課題として捉えていない。何のためにAIを活用するのか。その結果、どのような経営成果を目指すのか。そうした目標を経営陣が明確にし、組織全体で取り組んでいる。
最新のAIを導入すること自体ではなく、AIを使って何を実現するか。企業にとって重要なのはこの一点なのである。
AI時代、人間の役割はどう変わるのか
AIに仕事を任せることが当たり前になったとき、人間の役割はどう変わるのだろうか。この問いについて、興味深い考え方を示したのが、AI研究者で投資家のカイフー・リー氏である。
中国グーグルの元幹部としても知られるリー氏は、テックソースにオンラインで登壇。「AIネイティブ」(AIを前提に組織や仕事の進め方を設計すること)をテーマに、AI時代の組織のあり方について説明した。そこで紹介されたのが、DRI(Directly Responsible Individual=直接責任を負う担当者)という考え方である。
従来の企業では、経営者が方針を決め、管理職が部下に指示を出し、それぞれの部署が分担して仕事を進めることが一般的であった。しかし、AIエージェントがさまざまな業務を担えば、一人の担当者が複数のAIを活用しながら、仕事を進められるようになる。
例えば、新商品の開発を担当する社員が、AIを使って市場調査や競合分析、販売計画の作成などを進める。これまで複数の部署で分担していた仕事を、少人数で担える可能性があるということだ。リー氏は、こうした担当者を、「ミニCEO」として位置付けている。
一方で、リー氏はAIと人間の違いについても説明した。AIは情報の分析や作業の実行に優れている。しかし、過去のデータだけでは判断できないような新しい事業に挑戦したり、結果に責任を負ったりすることは、人間の役割であるという。
もっとも、こうした組織への転換が、あらゆる企業で同じように進むとは限らない。特に金融や医療など、法令や安全性の面から厳格な管理が求められる業務では、人間による確認や承認が引き続き必要になるだろう。しかし、AIが多くの仕事を担えるようになることで、従来の組織構造や社員の役割を見直す必要が生じるという指摘には、説得力がある。


