しかし、AIエージェントの登場によって、状況が変わり始めている。AIエージェントとは、与えられた目的に対して、必要な情報を収集したり、外部のアプリケーションを操作したりしながら、複数の作業を進める仕組みのことである。
ワークショップでは、リュウ氏が実際にChatGPT Workを操作し、その機能を紹介した。
例えば、Gmailに届いたメールを確認し、期限が近い案件を探し出す。続けて、そのメールの内容を詳しく調べたり、返信文を作成したりするよう指示することもできる。
さらに、パソコンの設定をAIに操作させる実演もあった。従来であれば人間が操作しなければならなかった作業を、言葉で指示するだけで実行できるようになりつつある。
もちろん、すべての操作が常に思いどおりに進むわけではない。実演中にも設定上の問題で操作がうまく進まない場面があった。それでも、AIが単に文章を生成する存在から、実際に仕事を進める存在に変わりつつあることは十分に伝わってきた。
これまで企業におけるAI活用といえば、文章作成や要約、翻訳など、個別の業務を効率化することが中心であった。しかし、AIエージェントを活用すれば、複数の業務を組み合わせた一連の仕事を任せられる可能性がある。この違いは大きい。
OpenAIの東南アジア地域を担当するシド・シャルマ氏も、テックソースの別のセッションで、AIの価値を測る方法が変わりつつあると指摘している。
シャルマ氏は、AIの投資対効果について、単に何時間の作業を削減できたかではなく、どれだけの仕事を完了させられたかという視点が重要になると説明した。
例えば、これまで1年かかっていた計画を2カ月で終えられるようになった場合、企業は残りの時間で何をするのか。削減できた時間そのものよりも、新たに生まれた余力をどのような事業に振り向けるかが問われるという考え方である。
農業の現場でも進む、AIを前提とした業務改革
こうした変化は、オフィス業務に限らない。興味深かったのが、タイの農業・食品産業を支えるテクノロジー企業、アクソンズ(AXONS)の事例である。アクソンズは、タイの大手食品企業チャルーン・ポーカパン・フーズ(CPF)などの事業を、情報技術の面から支援している。
同社のセッションでは、農業や食品のサプライチェーンにAIを組み込み、生産性の向上やリスクの低減を図る取り組みが紹介された。
例えば、養鶏場などでは、飼育している動物の体重を測定するために、人間が農場内に入り、実際に動物を捕まえる作業が必要になる。しかし、人間が出入りすることで、動物にストレスを与えるだけでなく、外部から病原体を持ち込むリスクも生じる。
そこでアクソンズは、カメラで撮影した動物の映像をAIで分析し、体重を推定する仕組みを導入している。動物に直接触れることなく情報を収集することで、作業負担と感染症のリスクを減らそうというわけだ。
興味深いのが、AIがすべてを判断するわけではないという点である。例えば、豚の健康状態を確認する仕組みでは、農場の担当者が症状を報告すると、AIが過去の飼育データなどを調べ、病気の可能性を整理する。しかし、最終的な調査や判断を行うのは獣医師である。AIが情報の収集や分析を担い、専門家が最終判断を下す。このように役割を分担することで、専門家がより多くの案件に対応できるようになる。


