スタジアムの外へ広がる効果
リポートは378.3億円を、施設内で生まれる需要(約200億円)、市中で直接発生する需要(約40億円)、県内産業へ広がる波及需要(約138億円)に3分解する。施設の外に出る約178億円が全体の47%という整理である。「スタジアムが儲かっても潤うのは運営企業のみ」という典型的な懐疑への回答として、この分解は分かりやすい。もっとも、約138億円の波及分は産業連関表に基づく計算上の数字であり、実際の取引を観測したものではない点には留意したい。
長崎市の「重点プロジェクトアクションプラン」には、まちのにぎわい創出事業(約1.06億円)、入居企業と大学の共創プラットフォーム(1690万円)、子ども体験創出事業(3690万円)など、NSCと連動した事業が並ぶ。県外観戦者向けの延泊促進助成や市内回遊の施策も、その一部である。民間が生んだ賑わいを行政が市中に広げる構図が動き始めたことは、一過性の話題で終わらせないための現実的な担保になり得る。ただし、そこに公費が入る以上、成果の検証も同じ水準で求められよう。
もう一つ見落とせないのが雇用だ。
リポートは就業者誘発数を4607人と試算し、長崎県の年間転出超過数(約4000〜5000人)に匹敵する規模だと訴える。この対比は比喩として読むべきだが、足元のデータは興味深い。NSC内では3800名以上が働き、うちジャパネットグループの従業員約1100名は、約8割が10〜30代で、20代だけで過半を占める。ただし、この年齢構成はグループ従業員のデータであり、NSC全体の傾向とは限らない。
地方都市の若年層流出の背景には、「働きたいが、希望する仕事がない」という構造があると指摘されてきた。飲食や宿泊の誘発雇用に加え、イベント制作、ホスピタリティ、施設管理、オフィス棟に入る企業の事務・技術系の職まで、多様な職種が同じ敷地に集積する。スタジアム事業が「観光」だけでなく「雇用の受け皿」としても機能し得ることは、地方創生の文脈でもっと評価されてよい。
求められる第三者による独立評価
もっとも、この試算をそのまま受け取るのは禁物だ。
経営者や自治体関係者が参照する際に押さえるべき点がいくつかある。まず、調査はジャパネットホールディングスの協力を得て作成されており、第三者による独立評価ではない。次に、378.3億円は付加価値ではなく「生産誘発額」であり、売上に近い概念だ。西九州新幹線の開業後1年間の観光効果(193億円)の「約2倍」という対比も、定義の異なる数字を並べた参考値であり、リポートにもそう注記されている。
さらに、県民がNSCで使った消費は、本来ほかの店舗で使われたかもしれない。県外からの来訪による純増がどれだけかという議論は、リポートでは深く掘り下げられていない。V・ファーレン長崎のアウェイ客消費16.7億円は、県内の最終需要290.9億円の約6%にあたる。ただし、県外客の消費はアウェイ客だけではない。イベント関係者の宿泊・飲食など(24.2億円)にも県外からの来訪者が含まれるとみられ、純増の規模は6%より大きい可能性がある。それでも、大きな見出しの数字は方向性を示す目安として読み、その中身を吟味するのが賢明と言えそうだ。


