ここに、従来のスタジアム論との決定的な違いがある。多くの施設は「箱」を作り、IPである試合に稼ぎを委ねてきた。NSCはホテル、オフィス、商業、アリーナを一体で設計し、スポーツを集客装置の一つに位置づけた。スタジアムを「試合をする場所」ではなく「毎日、人が来る街」として事業化した点が本質である。
ただし、この「56%」の読み方には少し注意がいる。クラブのスポンサー収入などは興行の成立が前提として試合日側に整理される一方、ホテルやオフィスの賃料など日付に紐づかない収益は非試合日側に入る。「試合がない日に人が集まって稼いだ」というより、「そもそも試合日程に左右されない収益の柱を持っている」と読む方が実態に近いかもしれない。それでも、収益の柱を試合に依存しない点は、本事業の最大の強みとなっている。
スタジアムと行楽施設を一体で運営する発想自体は、今に始まったものではない。昭和の時代から、東京では後楽園球場(1937年開場)と後楽園ゆうえんち(1955年開園)が隣接し、現在のようなホテル、多目的ホールを含む東京ドームシティにつながっている。重要なのは、それらが有機的に結びついた事業として設計・運営されてきたか否か。また、その発想が地方都市に定着してこなかったのも、事実だろう。
2競技保有と「日帰りしにくい立地」
もう一つの特徴は、サッカーとバスケットボールという2つの競技のクラブを同時に保有し、複合施設と一体運営している点だ。
2026-27シーズンからJリーグは秋春制に移行し、Bリーグとシーズンが秋から春にかけて重なる。真冬のウインターブレイク中はバスケットボールが週末を支え、そこにライブや外部興行、平日午後のシニア向け自主興行が加わる。年間のカレンダーに空白を作らない設計だ。
収益の性格も相互補完的である。サッカーは遠方から人を呼ぶ「外貨獲得型」、バスケットボールは屋内で年間30試合超を開催できる「高頻度循環型」と位置づけられている。ハピネスアリーナは約6,000席で、2026年4月時点で88試合連続完売と報じられた。天候に左右されない高稼働の屋内興行は、複合施設の収益を安定させる土台になる。
外貨獲得の鍵は、アウェイ客の宿泊だ。
このリポートは宿泊率を48.1%と置く。広島の最新スタジアムで実測された休日のGPS人流データ(30.8%)を起点に、ナイター終了後に帰れる最終便があるかを都道府県別に時刻表から逆算して補正した。この48.1%は、J1クラブの一般的なアウェイ客宿泊率とされる15〜20%程度を大きく上回る。ただし、実測値そのものではなく、実測を起点にしたモデル推計である点に留意が必要だ。
それでも、長崎という「日帰りしにくい立地」を弱みでなく宿泊需要の源泉に変える発想は、他の地方都市にも応用が利きそうだ。V・ファーレン長崎の1試合平均観客数は、2023年の約7300人から2026年には19623人へと約2.7倍に伸びる見込みである。重要なのは、観客増をスタジアム内の売上で終わらせず、隣接するホテルや市中の宿泊・飲食・観光に橋渡ししている点にある。V・ファーレン長崎のアウェイ客消費だけで、年間16.7億円が県外から流入するという。


