多くの起業家を呼び込むための6つの改革
報告書が提示する提言はいずれも純移民数を実質的に押し上げるものではなく、法改正を伴わずとも、移民規則や手数料体系の見直しによって即座に実行可能なものばかりだ。
最も急務とされるのは、定住資格をめぐる不透明性の解消である。報告書は政府に対し、適用開始日を明確にしたうえで意見公募への回答方針を公表するよう求めている。また、英国内で育成した外国人創業者の流出を防ぐ追加策も提言された。政府認可の推薦機関が事業審査を行う「Innovator Founder(イノベーター創業者)ビザ」の申請準備に入る場合、「Graduate(卒業生)ビザ」の保有者に12カ月の猶予期間を追加付与すべきだとしている。同ビザの滞在期間は2027年1月から18カ月に短縮される予定であるため、猶予を合わせれば計30カ月の猶予が確保できる計算だ。
海外の有力大学の卒業生がジョブオファーなしで2年間滞在・就労できる「High Potential Individual(高潜在能力個人)ビザ」の対象拡大も求められている。現行要件は総合大学ランキングに偏っており、名門ビジネススクールや単科大学が除外されている。MBAや専攻分野別のランキングを評価基準に加えれば、INSEAD、HECパリ、インド工科大学デリー校(IIT Delhi)、ダートマス大学など約20校が新たに対象となる。
さらに、創業者や初期採用メンバーにかかるビザ申請費用の引き下げも不可欠だ。創業者がInnovator Founderビザで単身移住する場合、6862ポンド(約143万円)を要する。配偶者と子ども2人を伴う場合は1万8694ポンド(約390万円)にまで跳ね上がる。政府は海外からの人材採用1人あたり最大5000ポンド(約104万円)を払い戻す補助制度を設けているが、対象は一定規模以上のスケールアップ企業に限られている。報告書は、従業員10人未満のシード企業に対しても最初の3人までは同等の助成を適用し、創業者・高度人材向けビザの手数料は次期総選挙まで凍結すべきだと提言している。
Innovator Founderビザ自体の審査要件も見直しが必要だ。事業に「これまでにない新規性や革新性」を過剰に求める現行基準を改め、そのビジネスが実行可能で高い成長性を秘めているかを評価基準の主軸に据えるべきだとしている。推薦機関の審査を通過した後は、内務省の役割を身元確認、安全保障、資金洗浄対策、不正防止に限定し、審査期間の処理目標にも法的な拘束力を持たせるべきだという。
最後に、新設ビザの導入前ストレステスト(脆弱性検証)の実施である。英国はこれまで、新制度を導入しては悪用が発覚して閉鎖に追い込まれるという失敗を繰り返してきた。報告書は、新設・改定されるビザの抜け穴を事前に洗い出すため、専門家と起業家で構成される常設の検証パネルを設置し、制度改定とともにその検証結果を公表することを求めている。
これらの制度改善が実現すれば、英国が世界トップクラスの野心的な起業家を惹きつけ、定着させるハードルは大きく下がるはずだ。ゴメスはこう強調する。「高度な教育を受け、実績を残し、数億円規模の外部資金を調達して事業を拡大しようとしている起業家に対しては、国を挙げて参入の扉を開くべきです」


