取引所は1度でも侵入を許すと流出の恐れがあり、常に攻撃を防ぐ必要がある
攻撃側と防御側で、求められる成功の条件は対等ではない。攻撃者は1度成功すればよいのに対し、守る側は常に攻撃を阻止し続けなければならない。従来の銀行では、複数の安全管理、リアルタイム監視、高額送金の一時保留、取引の凍結・取り消しによって、攻撃者が資金を動かすまでに時間と手間がかかる。だが暗号資産取引所の多くは、膨大な取引量と絶えず動く世界市場に対応するため、安全対策に十分な余裕がないまま運営している。
資産流出の危険を減らす複数の電子署名、オフライン保管、第三者監査
暗号資産を効果的に守れないわけではなく、現在の防御方法に不足があるのだ。資産を移す際に複数の電子署名を必要とする仕組み、インターネットから切り離した環境での厳格な保管、継続監視、第三者による独立監査を導入すれば、危険にさらされる資産を大幅に減らせる。警察などの法執行機関や、価格の安定を目指す暗号資産「ステーブルコイン」の発行者と迅速に連携することも重要だ。利用者の信頼を得るには、準備資産の保有状況を透明に示し、損失を補償する約束をすることも欠かせない。ただし、準備資産の証明や補償方針だけでは、最初のシステム侵入を止められず、事件後に市場全体へ広がる不信感も防げない。
バイナンスによれば、関連企業や法執行機関との連携で、盗まれた暗号資産のうち約30億ドル(約4718億円)相当がブロックチェーン上で凍結された。回収作業は続いている。同社は利用者に損失を負わせず、利用者保護基金と自社資金で補償すると表明した。準備資産の保有状況を示す新たな証明は、2026年11月2日に公表する計画だ。
AIは攻撃と防御を強化し、量子コンピューターは取引を守る暗号技術を脅かす
量子コンピューティングと人工知能(AI)は、暗号資産の安全を守ることをさらに難しくしている。AIはすでに攻撃側にも防御側にも使われており、防御側には脅威の早期検知や迅速な対応をもたらす。攻撃側では、標的を調べる高度な偵察、形を変えるマルウェア、脆弱性を突く攻撃の自動化に利用される。
量子コンピューターはさらに長期的な脅威であり、デジタル資産の安全を支える公開鍵暗号方式を根底から脅かす可能性がある。公開鍵と秘密鍵を組み合わせる技術で、暗号資産の取引に使う電子署名の作成・検証などを支えている。量子コンピューターが現在広く使われている方式の安全性を破れるようになる時点は「Q-Day」と呼ばれる。Q-Dayを単なる理論上の問題と考え、事業を継続・復旧するための備えを進めない組織は、いずれ深刻な結果を招くだろう。
暗号資産の保管・送金を守るには、認証と暗号方式をどう見直すべきか
利用者やシステムの認証を継続して確認し、必要に応じて暗号方式を切り替えられる仕組みが求められる。初めから利用者や端末を信用せず、アクセスを検証する「ゼロトラスト」に基づく設計も必要だ。さらに、量子コンピューターの攻撃に耐える暗号方式への移行も、将来の目標では済まなくなっている。巨額のデジタル資産を保管・移転する事業者にとって、いずれも必要性が高まっている。
※編注:米国国立標準技術研究所(NIST)は2026年10月27日、量子コンピューターによる解読に耐える暗号方式への移行指針を公表した。米連邦政府の特に重要なシステムについては、暗号鍵の共有に用いる技術を2030年までに、電子署名を2031年までに移行する期限が示されている。


