台湾有事では、中国で事業を展開する米テック企業への依存が危険をはらむ
マスクの権力が浮き彫りにするのは、さらに大きな問題だ。米国には、民間企業を戦争遂行にどう組み込み、米国の戦略・軍事上の利益に反する行動を取らせないかという戦略がない。ウクライナは比較的対処しやすい事例だった。米国企業の大半は、長期的に重大な影響を受けることなくロシアとの事業上の関係を断つことができたからだ。ウクライナの戦争遂行を支えたマイクロソフト、アマゾンのクラウドサービス「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」、マスク傘下の企業などは、中国にも大きな事業上の利害を持つ。中国側の立場により共感する可能性もある。
マスクは、中国共産党の主張を繰り返すように、台湾は中国の不可分の一部だと述べてきた。エヌビディアのジェンスン・フアンCEOを巡るスパイ行為について伝えた2026年10月29日付の報道が示すように、中国はすでに米テクノロジー企業のCEOを監視し、影響力を及ぼそうとしている。
中国が台湾に侵攻すれば、衛星通信の重要性はさらに高まる。台湾を外部と結ぶインターネット回線が、明白な攻撃目標になるからだ。中国はすでに台湾にサイバー攻撃を仕掛け、台湾の海底ケーブルを切断した疑いも向けられている。台湾は独自の衛星通信システムを構築しているが、信頼性、即応性、実戦での実績のいずれでもスターリンクに匹敵する衛星通信はない。
米政府は戦時の技術提供契約を整え、議会は企業協力を法制化すべきだ
米国には、自国や協力国が戦争に関わる場合、米テクノロジー企業がどのように協力できるかを定める枠組みが必要だ。特定の技術に依存した後で、中国からの圧力によって信頼できないと分かるような事態は避けなければならない。戦争中に協力国のデジタルインフラを守るために必要な技術・機能を見極め、米政府の指揮・管理の下でサービスを提供させる契約を準備すべきだ。2026年10月の時点で協議を進めれば、武力紛争に関与することで米国法に違反するのではないかという民間企業の不安も和らぐだろう。法的責任や、誰が技術の使用を認め、誰が制限するのかについて、曖昧さも責任の押し付け合いも残してはならない。
選挙で誰にも選ばれていない1人の男が、ウクライナの戦争遂行を止めるスイッチを握っている。選挙で選ばれた指導者は、スイッチを制御できないか、制御していることを認めようとしないかのどちらかだ。米議会はスターリンクの制限問題を徹底的に調査し、マスクが米国の外交政策を決める力に歯止めをかけるべきだ。その上で、戦時にテクノロジー企業が米国の国益をどう支えるべきかを法律で定めなければならない。
本稿の見解は執筆者個人のものであり、米国防大学、米国防総省、その他の米政府機関の見解を必ずしも示すものではない。


