カルチャー

2026.11.03 11:00

未来は「まだ値段のない文化」から始まる 文化を売る国から、価値生態系を編む社会へ

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利益を、次の文化へ戻す

初音ミクを使ってつくられた楽曲に、別の人が絵や映像、踊りを編み込み、創作の連鎖が広がった。クリプトン・フューチャー・メディアは、ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)と利用ガイドラインで、キャラクターの二次創作を許す条件を明文化した。権利は、創造を止める壁にも、次の創造を支える足場にもなる。

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では、文化は儲からなくてもよいのか。事業に利益は必要だ。資金を語らない文化論は、作家の無償労働を美談に変え、搾取を招く。

経済の役割は、文化を生む関係を次へつなぐことだ。作品が売れた瞬間を終点ではなく次の創造の起点とし、利益を制作時間、技術の継承、試せる場所、担い手の育成へ戻す。

循環は理念だけでは守れない。著作権の帰属、再演・翻訳・改変の条件、意思決定への参加を明確にし、売上や利用データ、運営の知見をつくり手へ戻す必要がある。

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参加の入口だけでは足りない。つくり手や共同制作者が権利と知見を持ち、条件を話し合い直し、不利益なく離れられること。事業を終えるときは記録、学び、権限を次へ渡し、新しい担い手が異なる選択を始められることが必要だ。

黒字でも、つくり手が疲弊し、技術や記憶を継ぐ担い手が育たなければ、価値生態系としては成功ではない。未来の文化を先食いしただけかもしれない。

文化の価値をどう測るか

作品や体験を点数で測り尽くすことはできない。経済価値は重要だが、ほかの価値の代わりにはならない。文化事業が何を支え、損なったかは、四つのレンズで見る。売上や雇用の「経済価値」。人が出会い、意見の違いを抱えたまま関われる「関係・公共価値」。技術、記憶、担い手、制作環境、土地を残す「継承・再生価値」。そして、いま需要がなくても将来選べる可能性を残す「オプション価値」である。

百席の小劇場は、来場者数だけなら大ホールに及ばない。しかし新人の作品が初演され、照明家が技法を試し、観客が未知の表現に出会い、五年後の作品が生まれるなら、継承・再生価値とオプション価値を生む。現在の小ささは、未来の小ささではない。

四つの価値を一つの点数に合算してはならない。売上が増えても、同意の欠如や権利の収奪、生態系への損傷は帳消しにならない。下回ってはならない最低線を置き、何を優先し、誰が価値を受け取ったかを公開する。

測定も、生態系の編み方を変える。売上や来場者数だけを目標にすれば、それを伸ばしやすい企画が選ばれ、未知の表現は後回しになる。だが来場者を度外視してよいわけでもない。公的資金は表現を短期評価から守るが、社会との接点を失う免許ではない。専門家だけに通じる「美術村」の言葉に閉じ、新しい受け手や異論が入らなければ、美術館も小劇場もインナーサークルの生態系となり、絶滅に向かう。

数値を捨てるのでも、一つのKPIに従うのでもない。誰に届き、誰に届かなかったか。新しい観客や担い手が生まれたか。異論を受けて企画や制度を変えられたか。数値はこうした問いを確かめる手段である。測定や資金配分の基準を当事者とともに更新し、数値化しない価値についても、理由と検証過程を公開する。

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文=宮田裕章

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宮田裕章の「辺境」未来論 ──Resonant Regions

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