AI半導体を支えるTSMCは、なぜ生産能力を急拡大しないのか
TSMCは世界の有力なAI半導体設計企業を顧客に抱える。エヌビディア、AMD、ブロードコム、マーベル、アルファベット、アマゾン、メタ(Meta)、マイクロソフト、クアルコムは、AI向け半導体の製造をTSMCに依存している。電力インフラやコンピューター用メモリーにも供給上の制約はあるが、TSMCの製造能力を欠けば、AIインフラ全体の整備は立ち行かない。
TSMCは、半導体の製造能力を過剰に拡大することに極めて慎重だ。半導体業界では需要の増減が繰り返され、先端工場の建設には数百億ドル(数兆円)もの費用がかかる。工場を増やしすぎた後にAI需要が急減すれば、稼働しない施設の巨額の費用が残るためだ。
需要減退を経験したTSMC、工場増設前に顧客の確約を求める
2021年には新型コロナウイルス感染症の流行で家庭用電子機器、パソコン、スマートフォン、自動車向け半導体の需要が急増し、TSMCの経営陣は製造能力の増強に過去最高額を投じた。しかし2022年にインフレが進んで消費が冷え込むと、2023年には顧客による発注の削減が相次いだ。工場には稼働しない設備が生じ、売上高が想定を下回る事態が繰り返された。
過去の経験から、TSMCはエヌビディアなどの顧客から確実な発注の約束を取り付け、しばしば前払いも受けてから新工場を建設するようになった。慎重な設備投資の結果、TSMCへの半導体製造の注文は、同社が生産できる量を大きく上回っている。
マスクの「テラファブ」構想は半導体の供給不足を解消できるのか
半導体の供給不足が永遠に続くわけではない。実業家イーロン・マスクは半導体工場「テラファブ」の建設を進めており、完成後には世界中の既存の半導体工場を合計した生産量を上回る数の半導体を作ると主張している。
半導体製造の経験がないマスクにとって、極めて大胆な目標だ。ただし、ロケットや人工衛星、電気自動車の製造に乗り出したときも経験はなく、必要な技術を短期間で習得してきた。もっとも、半導体工場の実現には、学習が速いマスクでも10年近くかかる可能性がある。


