「炭鉱のカナリア」という古い概念がある。炭鉱夫はかつて、カナリアを鳥かごに入れて坑内に連れて行った。一酸化炭素などの有毒ガスに敏感なカナリアは、少量のガスに対しても反応して気を失い、死に至ることもある。これが人間にとって、その場から退避すべきだという警告になった。米誌スミソニアンによると、この慣習は1980年代初頭まで続いた。
カナリアは耐え難いほどの力に対する繊細な警告の例えにもなっている。小さなカナリアには、どこか同情を誘うような印象がある。一方、人間の富裕層はそうではない。だが、富裕層は経済全体に対する早期警戒の合図となっている。
富裕層とGDP
消費者は国内総生産(GDP)の重要な構成要素だ。GDPが経済を正確に測る指標であるかについては疑問を呈する声も多いが、現時点ではこれが一般的な指標となっている。GDPの69%は個人消費によるものだ。
そのため、インフレ率や雇用水準、消費者信頼感、さらにはクレジットカードや自動車ローンの延滞や債務不履行の状況といった指標が、常に注視されているのだ。これらはそれぞれ異なる形で、消費者がどれだけ支出できるか、あるいは支出する意思があるかを示している。GDPの現在の定義に基づくと、消費が減少すれば経済は弱まることになる。
米国内には数億人もの消費者が存在するため、特定の層が総支出に与える影響は限定的だと考えられるかもしれない。しかし、実際にはそうではない。米財務分析企業ムーディーズ・アナリティクスは、消費者支出全体の49.7%が所得上位1割の層、すなわち年収25万ドル(約4000万円)以上の世帯によるものだと推計している。この割合は30年前は約36%だった。
所得上位1割の層の立ち位置や消費傾向に目を向けることは、的外れな階級に対する懸念ではない。それは、実に34.3%を占める米経済の要に何が起こり得るのかを、十分な根拠に基づいて考察しているのだ。この層の消費行動に変化が見られた時こそ、注意を払う必要がある。



