2023年6月、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に与えられる「B Corp」取得企業として初めて東証グロース市場に上場した「クラダシ」。食品メーカーからフードロスになる可能性のある商品を買い取り、低価格で販売するEC事業は、会員数66万人、パートナー企業数は約2300社にまで拡大した。その傍らで、IPO後の3年間は、再生エネルギー事業や空き家事業にも参入したほか、24年にはカンパニー制を導入。
積極的な打ち手を重ねてきたことで、26年6月期の売上高は前期比22%増の37.6億円、営業利益は黒字に転じて1億円となった。さらに27年6月期は、売上高95.3億円で営業利益5億円と、急激な業績アップを見込む。
代表取締役社長CEOの河村晃平は取締役執行役員CEOを経て、24年7月に現職に就任。上場後に取り組んできた事業の多角化やカンパニー制導入の背景、今後の事業展開、さらには社長としてのあり方を変えた出来事についても聞いた。

上場後3年間は「種まき」
──2023年上場後の1〜2年は業績が伸び悩んでいます。一方、M&Aや再エネ事業への参入などといった新たな取り組みも続けてこられました。振り返って、どのような期間でしたか?
河村:上場してから1年間は、フードロスEC事業がなかなか伸びませんでした。食品の値上げや原材料高で、食品メーカー側が在庫をシビアにコントロールするようになり、フードロス品の供給が少なくなったためです。そこで、冷凍弁当事業を手がけるクロスエッジ(24年4月)やオンライン料理事業のL'ATELIER de SHIORI(25年6月)を買収して領域を拡大しました。
24年7月に私が社長に就任したタイミングでカンパニー制を打ち出し、中期経営計画を発表しました。同時に、フードロス事業に加えてエネルギー事業にも取り組むと決め、25年1月に、系統用蓄電池を使って再エネの電力ロスを減らす「Kuradashi Energy」を立ち上げています。
上場してからの約3年間は、「種まき」の期間でした。
──26年6月期の売上高は前期比から22%増加しました。まいてきた種が実り始めたということでしょうか。
河村:はい。社長就任時に発表した中計で掲げた2027年6月期の目標は、売上高100億円、EBITDA5億円です。当時は売上高30億円規模で、赤字と黒字を行ったり来たり。そのうえ上場前は売り上げが年率70%超で伸びていたのに、上場後の1年目は横ばいから少し右肩下がりになってしまった。そこから改めて成長軌道に戻すと宣言したのがこの中計です。
今年がその最終年度ですので、実績で示せるかどうかが問われます。投資家の皆さまにも、しっかりアピールしていかなければなりません。
エネルギー事業は初年度5億円の売り上げ
────25年1月に開始したエネルギー事業「Kuradashi Energy」と、今年4月に開始した空き家再生事業「Kuradashi Estate」について教えてください。
河村:Kuradashi Energyは、1つは、系統用蓄電池を運用する事業です。蓄電池を設置して、電気が余っているときに溜めておき、足りないときに送り出す仕組みです。これを実現するには、設備をどこにどう設けるかという計画づくりと、工事や運用が予定通りに進むようにまとめる役割が必要です。費用の調達や、収益分配の仕組みづくりもあります。これらを弁護士や税理士の方々とも一緒に進めています。
もう1つは小売で、買収した中京電力による電力小売事業です。現在は主に食品メーカーさまをはじめとした法人一般消費者向けに販売しています。フードロス削減とは異なる領域ですが、提携する約2300社の食品メーカーの倉庫に対して、電力小売を提案できます。
電力の切り替えにとどまらず、太陽光パネルや倉庫に付随する小型蓄電池まで含めて、トータルのエネルギーソリューションとして提供しています。
Kuradashi Energyは初年度で約5億円を売り上げ、前期の利益はフード事業と同程度にまで成長しました。
空き家再生事業は、今年4月に不動産の売買・仲介事業を手がけるIntegrityとの共同出資によって生まれたNestiaが担っています。まずは体力作りとして、空き家を仕入れて売却する事業を始めています。日本には約900万戸の空き家があり、これらを負の資産のままにせず、価値のあるものとして転用していく担い手が必要だと考えました。
──フードロス事業についても現状を教えてください。
河村:フード事業は祖業であり、今も事業の一番の柱です。人員でいうと、全体の8割ほどがフード事業にいて、今期の売り上げの多くも、ここから生まれる見込みです。ECにとどまらず、日本郵便と共同で始めた冷凍宅配食「post chef」弁当や、リアル店舗の出店にも取り組んでいます。さらに、ECで培った知見を生かし、メーカーの在庫を一括管理するサービスも展開しています。
──リアル店舗は、2022年にたまプラーザでオープンしましたね。進捗はいかがですか?
河村:フラッグシップという位置づけでしたが、月間の売り上げは当初の倍以上になり、成長しています。取材や採用では「たまプラーザでクラダシさんを知りました」という声が多く、1店舗だけですが効果が出ています。成城石井さんは250店舗ほどですが、みなさんご存じですよね。200〜300店舗が知名度の分水嶺だと考えていて、数年でそこを目指したいです。
1000億円企業を見据え、カンパニー制導入
──2024年7月にカンパニー制へ移行されました。その背景を教えてください。
河村:事業の成否は意思決定のスピードで決まります。権限を与えることで、スピードを上げたかったという意図です。同時に、権限には責任が伴いますので、各カンパニーのCEOには、自分の事業でどう利益をつくるのかまで責任を持ってほしいと考えています。自分の事業が伸びているのか、利益が出ているのかは、トップが一番気になるはず。その自立心をつくる狙いもありました。
私は将来的に、100億円規模の事業を10個つくり、1000億円の企業を目指したいと思っています。そのときに、1人の番頭がすべての事業を見続けることはできません。各カンパニーのトップの当事者意識が高まれば、常にその事業のことを考え、アイデアも生まれます。そのときにアイデアを実行できる権限が必要です。自分たちで率先して動ける人が生まれる組織にしたかったのです。
──手応えはいかがですか。
河村:各カンパニーが自律的に意思決定し、「自分の城は自分で守る」という意識は強くなっています。私自身は、各カンパニーの最適化が全社の最適化になっているかどうかを見極める役割です。
──27年6月期の予想は、売上高が前期比2.5倍の95億円、営業利益は5倍の5億円と大きく伸びる計画ですね。
河村:この3年間、種をまき続けてきたものが実り始め、積み上げるとこの数字になると考えています。フードロス事業はすでに酒類販売を手がける中村商事や法人ギフトを扱うみとわを買収してきましたが、引き続きM&Aによって事業を強化していきます。エネルギー事業においては、今稼働しているのは1箇所ですが、新たな系統用蓄電所が順次、稼働開始予定です。今期中に3箇所稼働予定です。空き家再生事業は今期の予算にまだ織り込んでいませんが、今後は売買だけでなく、施設利用や賃貸管理事業を考えており、アップサイドとしてどれくらい伸びるかを楽しみにしています。
──業績予想は大きく成長する見込みですが、現在の時価総額は77億円(10月26日時点)。どう受け止めていますか。
河村:市場の評価は真摯に受け止めています。前期にやっと黒字転換したばかりなので、まずは成長と利益を継続して出せることを実績で証明する段階だと考えています。赤字から黒字に転じるタイミングは、投資家の皆さまに最も注目していただける局面であり、同時にトラックレコードが問われる局面でもあります。今期はまさにその真価が試される1年。計画を着実に達成し、期待に応えていきたいと思います。
また赤字になるのではないかという目で見られているので、今期は最も試される1年です。
──今後、中長期的に取り組んでいくことは何をお考えでしょうか。
河村:海外展開に取り組みたいと考えています。Kuradashi Food、Kuradashi Energy、Kuradashi Estateそれぞれで、市場は国内外にあるので、将来的には海外展開も目指していきたいですね。また、先ほどもお話ししたように、100億円の事業を10個作りたいと思っていて、領域の拡大も検討しています。
──新たな領域を考える上で、どのように意思決定をしますか?
河村:まず市場規模が十分にあるかを重視します。もう1つは、国の課題であるかどうか、つまり時流に乗れているかです。早すぎても遅すぎてもだめで、タイミングを見極めて参入します。例えばエネルギー事業は、政府が2024年12月に公表した第7次エネルギー基本計画の原案で、再エネ活用を進めていこうとする内容があり、今スタートしようと決めました。そして25年1月に、1案件目となる「栃木小山蓄電所」を取得し運用を始めました。
「目標を見失った状態」からの再起
──経営者として、苦しい時期はありましたか。
河村:上場後の半年から1年ほどは、正直なところ気持ちが上向かずにいました。上場を旗印に成長を追い求めてきましたが、それ自体が大きな成果になってしまい、次の目標や方向性を見失った状態だったのです。
──その状況から、何が変わったのでしょうか。
河村:IPOから1年後に社長を引き受けると決めて中計をつくったことです。クラダシの成長が世の中に与えるインパクトに、あらためて目を向ける機会になり、事業を多角化していくことにもワクワクしました。
経営者として刺激を受けた出来事はもう一つあって、それが25年5月に参加したハーバード大学主催の経営者向けの学習プログラムです。世界中の企業オーナーや社長が集まる場で、数千億円規模の企業を率いる人や、ファミリービジネスの当主もいたのですが、実はみんな同じような悩みを抱えているんです。「事業も成功し家族もいるけれど、トップとしてはいつも孤独だ」と話していたりする。それでも皆さん、工夫しながら楽しく事業に向き合い、良い人生を送ろうとしていました。それを見て、自分が日々感じる悩みも、経営者なら誰もが通る道なのだと思えて、少し気が楽になりました。うじうじしていても仕方がない、と思えるようになった出来事です。
──最後に今後の株主還元について教えてください。
河村:現在は、株主優待制度として、EC「Kuradashi」でご利用いただけるクーポンをお贈りしています。株主の皆さまに当社のサービスを実際に使っていただき、ユーザーとしても応援していただきたいという思いからです。
事業の成長を通じて企業価値を高めていくことが、株主の皆さまへの最大の還元になると考えています。一方で、資本効率は非常に重視しており、ROEを意識した経営を続けていきます。配当などの還元方法については、成長投資とのバランスや資本配分を見極めながら、適切なタイミングで検討していきます。



