サイエンス

2026.11.01 16:15

MLB球審の判定ブレは誤審にあらず 脳科学が暴いたストライクの正体

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アメリカのメジャーリーグMLBでは、球審の判定がカウントによってブレることが問題になっている。たとえば、3ボール0ストライクの打者が有利な場面ではストライクゾーンぎりぎりの、どちらとも判断がつきかねる微妙な球をストライクと判定し、逆に0ボール2ストライクの投手が有利なカウントでは微妙なコースをボールと判定する傾向が指摘されてきた。

審判がゲームを面白くしようとしてわざとやっているのか、またはただヘボなのかと疑いたくなるが、こうしたカウントによって球審のストライクゾーンが変わる現象は「カウントバイアス」と呼ばれ、統計学などの研究対象にされてきた。そこに広島大学の研究グループが1つの答えを出した。その偏りが、合理的な脳の働きによるものであることを解明したのだ。

人は判断が難しい状況に陥ったとき、頭の中で、感覚から得た情報と、過去の経験に基づく予測の2つを、状況に応じてバランスを調整したうえで組み合わせ、判断するという情報処理を行っている。それを「ベイズ感覚統合」と呼ぶが、時速150kmから、ときには時速170km近い剛速球がストライクゾーンを通過する一瞬を見極めなければならない球審も、ゾーンぎりぎりの判定に窮する投球を判定するとき、ベイズ感覚統合が働いているはずだと研究グループは考えた。

そこで研究グループは、2015〜2024年の公式戦で、右投手が右打者に対して投げた直球(フォーシーム)のうち、打者が見送り球審が判定した45万1172球を解析した。まずストライクゾーンの変化は、ボールとストライクの判定が半々になる位置を判定が難しい領域、つまり球審の実質的なストライクゾーンの境界と定義して、それが本来のゾーンからどれだけ離れているかを調べた。すると、3ボール0ストライクの打者が有利な場面ではストライクゾーンが実際よりも上下左右に広がり、0ボール2ストライクの投手が有利な場面では、実際よりも上下が縮まることがわかった。

また熟練の球審は、3-0や0-2のカウントでの配球の傾向を把握している。打者有利のときは投手はストライクを取ろうとド真ん中を狙い、投手有利のときは打者はボール球を見送る。今回のデータ解析でも、打者有利なカウントではストライクゾーンのほぼ中心に球が集まり、投手有利なカウントでは外角と高めに球が集まる傾向が示された。そうした傾向を球審は長年の経験で習得している。

それがベイズ感覚統合の「予測」に使われていると仮定し、独自の数理モデルでカウントによるゾーンの変化を再現したところ、実際のデータから解析したゾーンの変化と球審の予測を組み込んだモデルの範囲が、とくに高めと外角で一致した。さらに、審判89人それぞれの判定のばらつき、つまり見え方の曖昧さ、ハッキリ言えば判定の甘さを調べ、カウントによる偏りの関係を調べたところ、見え方が曖昧な審判ほど判定が偏る傾向が示された。このことから、カウントによる判定の偏りが「経験から学んだ予測で不確かな見え方を補う、脳の合理的な情報処理として説明できる」ということだ。

今年からメジャーリーグでは「ABS」、いわゆるロボット審判が導入され、球審の判定を不服とした選手がロボット審判の判定を仰ぐことができる「チャレンジ制度」がスタートした。こうした人間の審判の判定の偏りが科学的に証明されると、どの場面で球審の判断がブレるかを選手が学んで、絶妙なタイミングでチャレンジを申請して成功率を高めるなんて可能性も出てきそうだ。人間の審判にはますます厳しい時代になったが、メジャーリーグを見る楽しみが1つ増えた、と言えないこともない。

出典:広島大学 【研究成果】3ボールだとストライクゾーンが広がる? ~米大リーグ審判の判定の偏りを、脳の「予測」のしくみで説明~

文 = 金井哲夫

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