大切なのは、資産同士の変換関係を見ることだ。顧客理解が、商品開発の判断基準として組織に蓄積されれば、次の商品が変わる。技術の意味が生活者に理解され、ナラティブとして共有されれば、研究開発はブランド価値や価格決定力にもつながる。クリエイターとの協働が一回限りの起用で終わらず、次の市場や事業でも生かせる関係と知見になれば、将来の投資の精度は上がる。
逆に、それぞれを別々のKPI、部門、契約、年度予算で管理すれば、価値は途中で切れる。ブランド調査はブランド部門に、顧客データはCRM部門に、表現の知見は代理店に、製品開発の学習は研究開発部門に残る。企業全体では豊かな資産を持っているのに、次の投資判断では使えないということが起きる。
統合とは、すべてを一つの部署に集めることではない。異なる資産のあいだで価値が移動し、蓄積され、再利用される回路をつくることだ。
もちろん、広告宣伝費を一律に資産計上すべきだという話ではない。広告費をPLから会計上のBSへ付け替えるというわけではなく、PL上の費用が、ブランドや顧客関係、データ、組織学習という経営上の「見えないBS」に何を積み上げたかを捉えるということ。そして、その蓄積を次の売り上げや利益として再びPLに戻す回路はないのかを見極める。この循環こそ、Intangible Integrationの核心である。
広告・マーケティング産業には、生活者が何に意味を感じ、どのような関係を結び、何を語り始めるのかを観察し、設計してきた蓄積がある。その力を、キャンペーンの成果だけで終わらせず、商品開発、組織学習、事業ポートフォリオ、資本配分へ接続できるか。ここに、一般的な経営コンサルティングやテクノロジー導入支援とは異なる、この産業固有の可能性がある。
私はこれまでSNSマーケティングをメインに研究してきた。もちろんフォロワー数や「バズ」といった現象を扱うことが多いが、それ以上に、生活者の体験や語りのなかでブランドの意味や関係が形成されていくことに魅了されてきた。次は、それがどう残るのかを考えなければならないのではないかという自問からこのテーマにたどり着いた。
本連載では、ナラティブと企業価値のあいだにある、このミッシングリンクを探っていく。ブランド評価や無形資産経営には、すでに多くの研究と実践がある。しかし、市場で生まれた意味や関係を、次の資本配分へどう戻すかという実務には、まだ完成された正解がない。
管見の限りでは、まだこの分野における議論も十分ではないと思う。リニューアルした本連載では、国内外の企業事例や実践を手がかりに、言語化し、知見を蓄積していくことでその活性化に寄与したい。それは、実はこれからのコミュニケーション産業にとって重要な埋めるべきピースの一つに他ならないのだから。


