新たな問いは「何が企業に残ったのか」
思えば、広告産業の歴史は、分断されていたものを統合してきた歴史でもある。
第一段階は、媒体とメッセージの統合だった。テレビ、新聞、雑誌、店頭、デジタルなどさまざまな媒体と消費者との接点が増えるなかで、広告ごとにメッセージや与える印象が食い違うといったことが起きやすくなった。ドン・シュルツが唱えたIMCやコミュニケーションデザインといった考え方は、そうしたばらばらの表現や体験を一つの構想のもとに束ねるものとして役立った。
第二段階は、機能の統合だ。もともと、広告、PR、CRM、コマース、データ分析、顧客体験、事業開発は別の部署が担うことが多かった。それを、一つのチームで最初から最後まで手がける体制が広がった。近年ではAIも、その統合を加速させる共通基盤になりつつある。
ただし、ここまで見てきた二つの統合は、広告会社の仕事を起点に語られてきたともいえる。広告会社自身の言説をたどってきたのだから、それは当然だ。では、広告主の企業に残るものを起点に考えたら、統合の意味はどう変わるだろうか。
それゆえ、これから考えるべき新たなテーマは、「キャンペーンが終わったあと、何が企業に残ったのか」だ。そこで得られた顧客理解、育った信頼、ブランドの語られ方、クリエイターやパートナーとの関係、データや組織の学習は、誰が保有し、次の投資にどう使うのか?この問いは、十分に扱われてこなかったし、こうしたイシューそのものが、「派手好き」な広告業界とは、そもそも相性が悪かったのかもしれない。
施策は成功し、売り上げも反応も良かった。それでも翌年には、担当者も代理店も変わり、企画はまたゼロから始まる。成果を「次に使える無形資産」として残す設計がないのが問題である。
経営コンサルとは異なる、広告固有の価値
そこで私は、広告産業における第三段階の統合として「Intangible Integration(無形資産の統合)」を提唱している。筆者が運営するシンクタンク「New Strategy Institute (NSI) 」でもその構想をレポート化している。
広告コミュニケーションが、ブランドという無形資産の形成に寄与することは理解しやすい。しかし、企業の無形資産はブランドだけではない。顧客との関係、コンテンツやナラティブ、データや学習、組織能力、技術や研究開発など、さまざまなものを含んでいる。これらを個別に捉えるだけでは、そのポテンシャルを十分にくみ取れない。無形資産同士がどのように価値を生み、次の投資の生産性を高めるのか。その仕組みを捉えるための思考フレームが「Intangible Integration」である。


