より多くの受容体が細胞表面に到達
再設計されたTCRは、細胞本来のTCR鎖と競合するにもかかわらず、ヒトT細胞の表面に、より多くの機能的な受容体を発現させた。ヒト初代T細胞(実験用細胞ではなく、生体から直接採取した細胞)において、SETは元のTCRに比べて、標的特異的な受容体の染色強度が約2倍高かった。
受容体の発現増加は、T細胞活性の増強につながった。SETを備えたT細胞が、その標的を保有するメラノーマ(悪性黒色腫)細胞に曝露されると、T細胞の活性化を示すシグナル伝達タンパク質をより多く放出した。また、通常はTCRとその標的の相互作用を安定化させる分子を欠いていた他のT細胞においても、SETはその活性を向上させた。
他のがん抗原やウイルスタンパク質など、互いに無関係な4つの標的を認識するよう設計されたTCRについても、SETの試験が行われた。いずれの場合も、再設計された定常領域により、元の受容体と比較してシグナル伝達タンパク質の放出量が増加した。これは、標的を変更することなく、その変更を異なるTCRに適用できることを示唆している。
受容体の性能向上を、より優れた抗腫瘍効果へ
重要な疑問の一つは、再設計された受容体が、実際に腫瘍の抑制効果を高められるかどうかだった。実験では、SETを備えたT細胞は、元の受容体を持つT細胞よりも多くのメラノーマ細胞を死滅させた。48時間後の腫瘍細胞の生存率は、元のTCRを持つT細胞に曝露された場合は約78%だったのに対し、SET T細胞に曝露された場合は約30%まで低下した。
マウスにおいて、元の受容体は、腫瘍の増殖にほとんど影響を与えなかった。しかし、SETを発現するT細胞は、腫瘍の増殖を有意に遅らせ、生存期間を延長した。83日後、SET群の腫瘍は、元の受容体、または以前に再設計された受容体を投与された群に比べて、平均で35%小さくなっていた。127日目には、SET T細胞による治療を受けたマウスはすべて生存していたのに対し、対照群のマウスは半数未満しか生存していなかった。
T細胞の設計
この研究は、遺伝子改変T細胞療法を改善する新たな手法を提示している。がん標的を認識するTCRの領域を繰り返し改変する代わりに、コンピューターを用いた設計によって受容体の構造を改善できる。
また、これらの改良は、限られた設計サイクルで達成されたため、比較的コンパクトで効率的なアプローチといえる。SETの変更は、さまざまな標的特異性を持つTCRに追加できるため、同じ遺伝子改変戦略を、複数の治療法に活用できる可能性がある。
SETで改変されたTCRを、ヒトの治療法として評価するには、さらなる試験が必要だ。しかしこれは、コンピューターによるタンパク質設計のより広範な可能性を示唆している。治療効果を発揮するため、AIが全く新しい治療用分子を発明する必要はないのかもしれない。


