経営・戦略

2026.10.30 13:30

横河電機が挑むフィジカルAI プラント制御と150体のAI活用法

重野邦正|横河電機 取締役 代表執行役社長

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150体の「アシスタントAI」を開発

横河電機は社内のDXにも力を入れている。24年度から全社で生成AIツールを本格的に導入し、マーケティング、販売、顧客対応、ソフトウェア開発、エンジニアリングなど、各プロセスで自動化を推進している。

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26年8月末には、社内に蓄積されたノウハウや知見を活用するために「ナレッジアシスタントAI」約150体を開発したことを明らかにした。中期経営計画に盛り込まれた「無形資本の活用・育成」に向けた取り組みの一環である。

製品の仕様書や取扱説明書、技術関連の資料、社内規程などを読み込ませ、業務経験が長い社員ら100人超へのヒアリングを重ねながらAIを構築したという。その実力はどうか。社内検証では、同社の主力製品について150件の質問をしたところ、手動で検索したときに比べて5倍以上のスピードで回答を得ることができたという。

気になるのが誤情報・偽情報対策だ。横河電機のナレッジアシスタントAIは、情報を提示する際に参照元を明示するのはもちろん、不確かなことについては「わかりません」と答えるように設定し、ハルシネーション(AIがもっともらしいうそをつくこと)を防いでいる。

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エネルギー業界や社会インフラ、製造業などの現場では「グレート・クルー・チェンジ」、すなわち熟練労働者の大量退職に伴う世代交代と技術伝承の危機という課題に直面している。熟練したプラントオペレーターやベテラン労働者のノウハウの伝承は、待ったなしの経営課題だ。

「ベテランが大量に退職していく一方で、若年層がブルーカラーの仕事に就きたがらない。お客様と話をしていると、技術伝承と人材不足が大きな課題だとあらためて実感します」

そこでナレッジアシスタントAIの出番である。AI搭載型の技術伝承ツールを通じて、自社のみならず他社の人的資本の拡張にも一役買うことを目指す。現在は商品化に向けて、横河電機との関係性が深い複数社のオペレーション部門でPoC(概念実証)を進めている。

「非常に(顧客の)ウケがいい。ただし」と、ここで重野は力を込めた。「ちょっと謙虚に言うと、問題は中身です。我々はセブンナイン(稼働率99.99999%)の製品を扱う企業です。青写真を描くのは早ければ早いほうがいいですが、信頼できる製品やサービスであることは絶対条件。完成前に広げすぎると(横河電機の)レピュテーションに響きかねない。PoCも、一気に展開するつもりはありません」

小さなつまずきが信頼を揺るがしかねない。だからこそ慎重に、着実に広げていく。重野の言葉からは、責任あるかたちでAI活用と自律化を推し進めるという強い信念が伝わってくる。

人的資本を拡張するナレッジアシスタントAIの開発。その先に見据えるのは、企業の垣根を越えたAI同士の連携だ。横河電機がもつ計測・制御分野の知見を備えたAIと、顧客がもつ知識を学習したAIを連携させることで、新たな価値創造とビジネスの拡張を狙う。

AIが賢くなるほど、人はいらなくなるーーそんな不安が広がるなか、横河電機の社長の答えは真逆だ。

「AIが進化すればするほど、人の価値は高まる」

人の仕事を奪うためではなく、人の可能性を広げるためにAIを使う。これこそが、同社のAI戦略全体を貫く哲学である。

「いくらいいものをつくったとしても、売れなくては意味がない。お客様の課題を見つけること。世の中の変化を読み取ること。新しいビジネスを考えること。ビジネスをディベロップすること。これができるのは、やっぱり人なのです」


横河電機◎1915年創立。YOKOGAWAグループ会社とともに、計測、制御、情報の技術を軸に最先端の製品やソリューションを提供。63カ国に拠点を構え、従業員数は連結で1万8,000人を超える。

重野邦正◎九州工業大学を卒業後、1991年に横河電機に入社。2021年ヨコガワ・ミドルイースト&アフリカ社長、23年執行役員中東・アフリカ統括代表兼務、24年常務執行役員デジタルソリューション統括本部長を経て25年4月に社長就任。

文=瀬戸久美子 写真=淺田 創 ヘアメイク=Kunio Kataoka(AVGVST International)

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