未発見の分子がゲノムに隠れている可能性
解析の限界よりもサイズが小さいために発見されていない分子が、オレキシンのみであることは考えにくい。短いタンパク質コード領域であっても、100個以下のアミノ酸からなる、機能するマイクロプロテインをエンコードすることは可能だ。さらには、これまでタンパク質を生成する機能はないとされてきたRNAの中に位置しているコード領域さえ存在する。例えば長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)は、小さなペプチドを独自に作り出している可能性がある。2023年発表の研究ではこうした短い領域が、これまでの解析では除外されてきた点が指摘されている。
オレキシンの物語は、適切な実験やコンピューター解析のアプローチがなければ、重要な機能を持つペプチドが見過ごされてしまう可能性があることを示している。ゲノムアノテーションの手法がさらに進化し、細胞内の小さなペプチドやRNAの直接検出が実現されるようになれば、現時点では発見されていない機能を持つ分子が、さらに多く見つかる可能性がある。
通常の遺伝子探索戦略では見逃されたかもしれないオレキシンは、すでにナルコレプシーの治療を変えている。これは、ゲノムが持つ隠された可能性を示す好例と言えるだろう。そして、ツールキットを拡張することで、生物の仕組みや病気に関する新たな理解が得られる理由も示している。


