何気ない一言を、AIが商機に変える
時代を先読みし、「作戦勝ち」を続けてきた深井が見据えるのがAIネイティブな銀行の姿だ。「AIでできるものはすべてAIに任せる」という方針の下、24年7月に全行員向け生成AI基盤「ぐんぎんAIチャット」導入し、融資や人材育成など目的別にAIの活用範囲を広げてきた。
26年5月には、渉外融資業務を支援するシステム「AI Buddy」を本格導入した。過去の融資や面談記録などを学習したAIが、顧客との関係構築や訪問準備など、業務プロセスの上流工程から行員を伴走支援する。
「これからは、AIがテキスト情報を読み解くことで、営業担当者すら気づかないようなお客様の潜在ニーズをAIが拾い上げる時代が来る」
例えば、とある中小企業の経営者が「息子が先日、医学部に入ったんだよ」と行員に話したとする。こんな何気ない発言も、のちに大きな意味をもつ可能性があるという。
「これが20年前の会話だったら、息子さんはそろそろ開業の時期を迎えて融資を必要としているかもしれない。一方で、自社の事業承継について考えなければならない時期も来ている。このように過去の発言をAIが分析し、最適な提案をしてくれれば営業先が確実に増える」
仕事のあり方が大きく変わるなか、人事制度面でも大胆な打ち手を講じてきた。24年6月に「ジョブ型人事制度」を導入し、群馬銀行の慣習だった資格制度を撤廃した。マネジャー職やスペシャリスト職など4つの職群を設け、それぞれの職務要件にふさわしい人物を充てる。先にポジションありきで、担当者の年齢やキャリアの長さは問わない。
経営戦略を見直し、人事制度をつくり替える。その原動力は若手時代の不満にあった。がむしゃらに仕事をして成果を上げても、年次が上がるまでポジションを与えられない。変革のアイデアを周囲に伝えても実行されない。
「これではダメだ」──。
長年抱き続けてきた違和感や課題意識と、金融業界のプロとしての知識や経験。これらすべてが深井の数々の挑戦を後押ししている。
頭取になって8年目を迎えた今、深井の前にはさらなる挑戦が待ち受けている。27年4月に予定されている、第四北越フィナンシャルグループとの経営統合だ。9月25日時点で両社の時価総額の合計は2兆円超。経営統合すれば、上場している地銀のなかでトップを争う規模になる。「攻めの経営統合」で狙うのは首都圏、そして世界進出だ。
統合持株会社の本社は東京に置く。「(両行の行員が)同じフィールドに集い真の融合を図ることで、『うちの銀行の考え方はこうだ』という過去の慣習や文化の壁を取り払い、お互いの強みを融合させたベストプラクティスを求めていきます」。
深井の頭のなかは、やりたいことで満ちている。そこに限界の文字はない。
群馬銀行◎群馬県に本店を置く地方銀行。「私たちは『つなぐ』力で地域の未来をつむぎます」をパーパスに掲げ、群馬県内のメーンバンクシェア率は約45%を誇る。2027年4月に第四北越フィナンシャルグループと経営統合予定。
深井彰彦◎1960年、群馬県高崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、群馬銀行に入行。92年に米スタンフォード大学で経営学修士(MBA)を取得。総合企画部長、常務、専務などを経て2019年から現職。


