超純水関連企業の強みのひとつは、新規参入が難しい点にある。国内ではオルガノ、栗田工業、野村マイクロ・サイエンスの「超純水御三家」が市場を寡占している。いったん製品を納入すれば、顧客は容易に他社に切り替えることができない。これが水処理インフラ企業の高収益体質につながっている。
加えて、オルガノの業績を下支えしているのが製品納入後のアフターサービス、すなわちソリューションビジネスだ。超純水や排水処理プラントをオーダーメイドで設計・納入し、その後はメンテナンスや改善提案を通じて顧客の工場の安定稼働を長期的に支える。「売って終わりにしない」ことで、持続的な成長と安定した収益基盤の拡充を目指す。
AI時代こそ「スキルマップ」が必要
山田の目から見て、オルガノは「水処理エンジニアのプロフェッショナル集団というイメージがとても強い」という。「自分の技術に強い誇りをもち、お客様の難しい注文もパーフェクトにやり遂げる」。だが、現状に甘んじている余裕はない。人手不足やベテラン人材の育成といった課題を抱えているからだ。そこで「技術伝承AI」の出番である。
24年7月、オルガノはナレッジ可視化AIを手がけるLIGHTzと資本業務提携を結んだ。LIGHTzの強みは、第二次産業の現場で暗黙知となっているベテランの知識やノウハウを構造化し、言語ネットワークとして可視化する技術にある。可視化された知識やノウハウはナレッジ共有プラットフォームなどに組み込まれ、高度な技術マニュアルになる。これにより、各社がもつ隠れた強みを会社の技術資産として蓄積できる。
この提携のゴールは、人手不足や人材育成の課題解決に資するソリューションを共同開発することだ。半導体やエネルギーなど最先端分野で培われてきた熟練エンジニアの暗黙知を可視化し、次世代への技術継承を確実にする。今後は、現場での活用を通じて、エンジニアの声を拾いながらソリューションの価値を実証していくという。
「ベテランエンジニアのノウハウを誰もが活用できるようにすることで、業務の効率が上がる。このシステムが完成すれば、案件によっては業務にかかる時間が10分の1以下に減り、少ない人数で大量の仕事をこなせるようになると思います」
とはいえ、山田は「到達率はまだ20%ぐらい」とも打ち明ける。
「本当の勝負はこれからです。30年に向けて、特に半導体関係の超純水の需要拡大は続くでしょう。ニーズに応えていくためには、AIを活用したエンジニアリングの業務改革が必須です。(AIの活用に)真剣に取り組んでいかないと、競争に勝ち抜くことはできない。これだけははっきりしています」
AIの活用を進める半面、山田には新たな課題意識も芽生えているという。AIの導入によって、結果的に社員が基礎知識を習得する機会が失われることに対する懸念だ。
「ベテラン並みの仕事もできるようになったとしても、自分の業務の原理原則や技術的な背景への理解がおろそかになってはいけない」
そこで、同社では社員のスキルの管理に取り組み始めた。各社員のスキルマップを作成し、技術力やエンジニアリングの経験、設計ソフトを使いこなす力、顧客との折衝経験など、細かなスキルごとに個人の能力を評価する。
「業務の効率化が進めば、人員を配置転換する必要性も高まる。適材適所を進めていくうえでも、社員のスキルマップは必要です。誰がどのスキルをもっているのかを明らかにし、同時並行で人材育成や教育にも力を入れていきます」


