多くの人の場合、両眼の色はほとんど同じだ。同じ遺伝子を共有し、同じように血液が供給され、同じ発生プロセスをたどる。そのため、茶色、緑、青、いずれの場合もたいていは同じ色に落ちつく。片方の眼が茶色で、もう片方の眼が青い人が注目を集めるのは、それが理由だ。通常なら完璧な対称になるはずのものに、まれな不均等が生じたのだ。
こうした状態は虹彩異色症と呼ばれ、ヘテロクロミア(heterochromia)という医学用語は、「異なる色」を意味するギリシャ語に由来する。一般に、100人に1人未満で生じると推定されているが、2022年に『Journal of Optometry』に掲載された研究によれば、正確な数字は驚くほどはっきりしないという。
虹彩異色症には主に3つの型がある。完全型虹彩異色症は、片眼の虹彩の色がもう片方の眼と異なる。扇形虹彩異色症は、片眼の虹彩の一部がほかの部分と異なる。中心型虹彩異色症は、瞳孔のまわりの色が虹彩の外側の部分と異なる。中心型は、気づかれないほど微妙な違いであることが多い。
眼の色は単一の色素で決まる
左右の眼の色が異なる理由を理解する上では、そもそもなぜ眼に色がついているのかを知っておくのが良いだろう。意外なことに、ヒトの虹彩には基本的には1種類の色素しかない。この色素はメラニンと呼ばれ、皮膚や髪に色をつけているのと同じものだ。メラニンは、メラニン細胞(メラノサイト)という特殊な細胞で発生する。
2009年に『Pigment Cell & Melanoma Research』に掲載されたレビュー論文で示されているように、茶色の眼には、虹彩の前側の層に多くのメラニンが含まれている。青い眼はメラニンがごく少ないが、青い色素があるわけではない。青い色は、虹彩の組織による光の散乱の仕方から生じる。空が青く見える物理の基本的な仕組みと同じだ。緑色とヘーゼル(黄褐色)の眼はその中間にあたり、中程度の量のメラニンと光の散乱効果の組み合わせで生じる。
虹彩のつくるメラニンの量は、いくつかの遺伝子の影響を受ける。なかでも重要な役割を果たすのが、互いに隣接する2つの遺伝子、OCA2とHERC2だ。2008年に『The American Journal of Human Genetics』で発表された研究によれば、HERC2の小さな変異がOCA2の調光スイッチのようにはたらき、虹彩の色素産生量を減らすようだ。とはいえ、眼の色はポリジーン遺伝、つまり多くの遺伝子がそれぞれ少しずつ寄与する形質だ。
そのため、虹彩異色症は突き詰めれば、おおむね1つの疑問に行き着く――片眼の虹彩、または虹彩の一部で、ほかの部分よりもメラニンが多くなったり少なくなったりするのはなぜなのか?
胚から眼へ
答えはたいてい発生初期にある。メラニン細胞は眼で生まれるのではなく、神経堤細胞と呼ばれる胚細胞の集団に由来する。神経堤細胞は、発生途中の脳と脊髄に沿って形成され、のちに全身に移動する。この細胞がやがて、顔の一部や神経系、皮膚や髪や眼の色素細胞を形成する。



