社内SNSで年間3万件の「ありがとう」
組織改革の柱は、幹部全員が管理・チェック業務を捨て「支援・伴走」に回ったことだ。「管理はローコストで画一的。一方、支援は手間がかかるが、一人ひとりの結果が出やすいんです」。主体性の強い社員は見守るだけでいいが、弱い社員には丁寧に伴走する。社員同士を比べたり競わせたりせず、成果や行動量の“ばらつき”を許容する。「経営者が許容すると、社員同士もそのばらつきを許容する」と井上。この非競争的な設計こそが、組織に心理的な安全性をもたらしていった。同時にもうひとつの事業の柱である電気設備エンジニアリング事業も、北近畿屈指の技術力をもちながら当時は三次下請けとして扱われていた。「社員の給料を上げるには、顧客を変えるしかない」。市場分析よりも社員の待遇改善を起点に、井上は直接顧客と向き合う体制へ転換させた。結果、15年間で同事業の売り上げは5億円弱から17億円近くまで急伸した。
地道な積み重ねは、社内SNSで年間3万件超の「ありがとう」の投稿と、55回に及ぶ人事評価制度の改訂、7000件を超える社員からの意見・提案にもつながった。こうして承継以来、社員数は1.6倍、業績は2倍、社員の給与は1.5倍に伸び、債務超過からの復活を遂げた。「毎日がちゃんと幸せ」を貫いた井上がたどり着いたのは、「自分たちだけでなく、地域や取引先まで幸せを広げていく『幸福と成長のスパイラル』」、いわば「福の渦」という構想だ。「我々が起点となって、さまざまなステークホルダーが関係していく大きな渦を巻き起こしたい」と井上は意気込む。最後に井上にとっての「幸せ」を聞くと、こう答えた。「何かを達成したから幸せになるのではない。Be Happyではなく、Being Happy。つまり幸せで満たされている状態に自らを置き続けること。私はすでに幸せなんです」
井上大輔◎1974年生まれ、京都府福知山市出身。大学卒業後、英国で3年間ホテル&ツーリズムを学び、インドネシア・バリ島にてホテル経営に携わる。29歳で井上の代表取締役に就任。借入金20億円、債務超過10億円の経営危機下に「資金、モラル、ビジョン」がなかった組織を、実質無借金かつ社員が幸せに働く自走型組織へと再生させた。


