もちろん、ある企業が別の企業と異なる倍率で評価される理由はいくらでもある。金利も影響すれば、リスクも影響する。他の業界よりも多くの資本を必要とする業界もある。ストック型(継続的)収益を持つビジネスは、景気後退のたびに利益が消滅するビジネスとは異なった見方をされる。PERだけを見て、それが企業価値のすべてだと見なすのは早計だ。
それでも、株価収益倍率は戦略的に極めて重要な何かを捉えている。不完全ではあっても、投資家がまだ実現していない利益について何を信じているかを反映しているのだ。企業が成長を続け、新しい市場に参入し、新規事業を開発し、時間をかけてより大きな利益を生み出すことができると人々が考えれば、一般的にその現在の利益に対してより高い評価(倍率)を支払う。逆に、成長の余地がほとんど残されていない成熟したビジネスと見なされれば、支払う金額は少なくなる。
確かに、市場がそうした判断を大きく見誤ることもある。投資家は実現しないストーリーに恋をする。バブルも起きる。素晴らしい企業が見落とされる一方で、荒唐無稽な企業が一時的に流行することもある。株価収益倍率は企業の価値を示す神聖不可侵の評価ではないが、その企業にどれほどの未来があるかに関する一種の合意された信念なのだ。
フォード・モーターとテスラを例に考えてみよう。フォードは巨大企業だ。何百万台もの車両を販売し、世界中で約16万8000人を雇用している。そして世界中に製造拠点を構えている。フォードの売上高は1870億ドル(約29兆5000億円)で、テスラの950億ドル(約15兆円)の倍近くに達する。しかし、フォードの株価は予想PER約8倍で取引されているのに対し、テスラは190倍近い水準で取引されている。
自動車会社に利益の190倍もの評価をつけるのは、「来年、その会社が車をもう少し多く売るだろう」と考えているからではない。テスラの評価額には、自動運転、エネルギー貯蔵、ロボティクス、AI、そして形になりつつある段階のその他の事業に対する期待が組み込まれている。それらの期待がすべて妥当かもしれないし、半分は誇大宣伝かもしれない。それを判断するのは難しい。重要なのは、フォードの方が事業規模が大きく、テスラの方が企業価値が高いということだ。この2つの数字の開きは、人々が次に何が起こるかをどのように想像しているかを如実に物語っている。


