エヌビディアの開発環境「CUDA」は、AI用半導体の市場で強い影響力を持つ。企業がCUDA向けにプログラムを作り込むほど、他社製半導体への切り替えは難しくなる。これに対してクアルコムは、異なるメーカーの半導体でも使えるソフトウェアをそろえ、自社製品の採用を促そうとしている。データセンターだけでなく、スマートフォンやロボットにも広がるAI市場で、開発者が半導体を自由に選べる環境を築けるかが焦点だ。
CUDA向けにAIを開発するほど、他社製半導体への切り替え費用が高くなる
AI市場で競争するには、特定企業のソフトウェアから抜け出しにくくなる「囲い込み」の問題を避けて通れない。データセンターでは、エヌビディアのGPU向け開発環境「CUDA」に多くの開発者が依存している。CUDAに合わせてAIの処理手順やプログラムを作るほど、他社製半導体へ移る際の書き換えや調整に費用がかかる。端末でも、基板を動かすためのメーカー専用ソフトウェアや独自のソフトウェア構成に依存すると、後継製品の設計でプロセッサーを変更しにくくなる。
AIを動かす場所は、データセンターのサーバーラックから、パソコン、スマートフォン、ウェアラブル機器、産業用制御装置、ロボットへと広がっている。AIエージェントを利用するアプリケーションでは、処理をクラウドと手元の端末に振り分ける。処理場所に応じて価格、消費電力、性能の異なる半導体を選べることが、ますます重要になる。
クアルコムが4社の買収を発表、競争に必要なソフトウェアを補強する
クアルコムは2025年初め以降、IoT(モノのインターネット)向けAIの開発を支援するEdge Impulse、電子回路の試作や制御に使う開発基盤のArduinoの買収を発表した。さらに、AIソフトウェア企業のモジュラー(Modular)と、ロボット向けソフトウェア企業のPickNik Roboticsの買収も発表した。
クアルコムは2026年9月に開いた技術イベント「Snapdragon Summit」で、一連の発表を通じて、買収した各社の技術を新市場への参入にどう生かすかを説明した。中心にあるのは、クアルコム製の半導体だけに依存しない開発環境を整える方針だ。
編集注:執筆者のスティーブ・マクダウェルと、同氏の調査会社NAND Researchは、過去にクアルコムへ助言や分析サービスを提供した。
買収した企業はそれぞれ、クアルコムに不足していたソフトウェア技術を補う。同時にクアルコムは、半導体を動かす上位のソフトウェアを他社製品にも開放し、異なる機器へ移せる状態に保とうとしている。エヌビディア以外の半導体メーカーも開発者へ製品を売り込みやすくなり、クアルコムは自社製半導体の採用を競えるようになる。
独自仕様の半導体を守りつつ、開発用ソフトは他社にも開く
クアルコムは中核となる半導体技術を独自に開発し続ける。対象はCPUやGPU、AI処理に特化したNPU、信号処理用のDSPだけではない。通信に使うモデムや無線回路、電力管理技術、異なる種類の演算装置を組み合わせる設計も含まれる。ただし、半導体の上で動く開発用ソフトウェアを他社製品でも使えるようにすれば、開発者はクアルコム製品の採用を最初から決めずに開発を進められる。
エヌビディアは独自仕様のCUDAを中心にソフトウェア環境を構築している。AMDもROCmという開発基盤を提供するが、オープンソースでありながら、対応するGPUとAIアクセラレーターはAMD製に限られる。クアルコムは、より多様なメーカーの半導体に対応するソフトウェアを通じて差別化を図る。
クアルコムが買収によって集めたソフトウェア基盤は、AI開発の異なる工程を受け持つ。同社は、各基盤の開放性と他社製ハードウェアへの対応を維持する方針を示している。



