1939年、ソ連とナチス・ドイツは独ソ不可侵条約に署名して世界を揺るがした。欧州の広大な地域を両国間で分割することで密かに合意したこの条約の締結後、両国はほぼ同時にポーランドを侵略・占領。このときアドルフ・ヒトラーは「反攻」を正当化するため、ポーランドによる攻撃を偽装した偽旗作戦をドイツ国内で実行した。
数週間後、社会主義帝国建設のため領土拡張を目論むヨシフ・スターリンは、ヒトラーの戦略をまねてフィンランド国境のロシアの村に偽旗攻撃を仕掛け、ソ連軍がフィンランド国境地帯を占領するに至る「冬戦争」の舞台を整えた。
グロスフェルドによれば、プーチンはヒトラーとスターリンの領土拡張主義に基づく軍事作戦を綿密に研究しているとみえ、NATO加盟国を標的にした「新たな冬戦争」の火ぶたを切る準備を進めている可能性があるという。
プーチンはバルダイ会議の演説で、バルト海沿岸のロシアの飛び地カリーニングラードがNATOの攻撃を受けた場合、対抗手段として核弾頭を用いる可能性について時間をかけて詳細に説明。「ロシア連邦への直接攻撃、今回のケースではカリーニングラードだが、他の地域が巻き込まれる可能性もあり、そのときはロシアが保有するあらゆる兵器の使用が必然的かつ即座に検討対象として浮上するだろう。これは避けられないことだ」と言明した。
しかし、NATOがカリーニングラードや他のロシア領土に対して先制攻撃を強行する計画を立てたことがあるという証拠は一切ない。
プーチンの軍事戦略について専門家であるグロスフェルドは、ロシアがNATOの防衛体制への揺さぶりを強めているのは西側同盟そのものの弱体化が狙いだと指摘。NATO加盟国のリトアニアとポーランドのいずれか、または両方に「反撃」する口実として、カリーニングラードで偽旗作戦を計画している可能性があるとみる。
もし、ロシアの侵攻が始まった場合にNATO諸国が迅速に団結して、NATO条約の核心である第5条に基づく集団的自衛権を行使できなければ、それはNATO終焉の始まりを告げることになるかもしれない。
急激に高まりつつあるロシアの攻勢に対して、NATO側はこれまで限定的な反撃しかしていない。それでもグロスフェルドは、たとえ局所的にであれNATO加盟国への侵攻があれば、同盟諸国は迅速に対応するとみている。
「NATOも訓練や武装を強化しているはずだ。ただ、ロシアの挑発に対して強硬な対応を取ることはなさそうに見える。少なくとも、バルト三国をはじめとするNATO加盟国にロシアが地上侵攻しない限りはそうなるだろう」
そして、長年くすぶってきた東西文明の衝突において、ロシアとNATOが地上部隊と戦闘機やドローンを対峙させることになったとしても、プーチンが核による破滅論をどれほど宣言したところで「実際に核兵器が使用される可能性は今もって低いと考えている」とグロスフェルドは語った。


