実質利回りの上昇は逆風だが、金はそれに抗うこともある
ウォール街の定説では、実質利回りが上昇すると金価格は下落するとされる。実際にそうなることもある。一例を挙げれば、実質利回りが約1.5ポイント上昇した2013年、金価格は28%下落した。これは金の年間下落幅としては数十年で最悪の部類に入るものだった。
とはいえ、この法則はけっして絶対的なものではない。たとえば2005年から2007年にかけて、実質利回りは2%から現在と同じ3%近くのレンジで推移したが、金価格はこの間にほぼ2倍に上がった。また2022年には、実質利回りが大幅なマイナスからプラスに転じ、通年で2.5ポイントを超える変動を記録した一方、金価格は年間を通じてほぼ横ばいだった。さらに言えば、その後、実質利回りが高止まりするなかで、金価格は史上屈指の上昇局面に入った。
これらの時期はなぜ通説に反する結果になったのか。理由は金の買い手にある。2013年には、欧米の投資家が金を売り浴びせていた。現在はと言えば、金の最大の買い手たちは購入姿勢を崩さず、さらに買い増している。
今年、実質利回りが1ポイント上昇するなかで、金価格は10月2日時点で4%の下落にとどまっているのも、ここから説明できる。
「ラブ・トレード」と中銀の金買いは衰えていない
長年の読者はご存じのように、筆者はかねて金相場は「フィア・トレード(恐怖に起因する取引)」と「ラブ・トレード(愛着に根ざす取引)」という2つの要因で動くと説明してきた。フィア・トレードは、インフレや金利、政府の政策に投資家が反応して行う売買のことだ。もう片方のラブ・トレードは、贈り物や貯蓄のために金を買う文化的な需要を指し、とりわけ中国やインドで活発だ。
金にとって、9月はフィア・トレードの面では厳しい月だった。しかしラブ・トレードのほうは、中央銀行による金買いとともに健在だった。
中国の中央銀行である中国人民銀行は、8月に金を20トンあまり買い入れた。人民銀による月間の金購入量としては2023年以降で最大であり、金の積み増しは22カ月連続となった。また、中国による2026年1〜8月の金輸入量も1141トンに達している。この時期としては過去最高で、すでに2025年通年の輸入量を上回っている。さらにポーランドなども金を買い増しているほか、韓国の中銀である韓国銀行は12月に、2013年以来となる金の購入を計画する。
各国当局はなぜ金を購入しているのか。それは、自国の外貨準備の安全性を確保するためにほかならない。2022年にロシアの在外外貨準備が凍結されるのを目の当たりにした各国は、他国に一方的に差し押さえられない資産を保有したいと考えているのだ。
購入のタイミングにも注目したい。中国では10月1日から7日まで、国慶節(建国記念日)に伴う大型連休があった。中国は例年、この時期から金購入のピークシーズンに入っていく。


