テーマ2:「日本人らしさ」を失わず、自らの価値を伝える技術
筆者:日本の組織文化では「言わなくても察する」「謙虚さが美徳」とされるのが一般的です。一方で、グローバルな環境で「頑張っていれば、誰かが見ていてくれるだろう」という期待は通用しにくい印象があります。
清水:海外の組織文化の大前提として、Googleでも世界銀行でも、自分のキャリアは自分でつくり、守らなければならないということです。その背景には、評価制度の違いがあります。
私が経験した日本の組織では、人事部門が複数の上司や部署からの情報を踏まえ、自らアピールせずとも、長期的かつ組織横断的に、職員の評価や配置を考えてくれます。一方、Googleや世界銀行のような組織では、直属のマネージャーによる評価という1対1の評価がキャリアを大きく左右します。
重要なのは自身のストーリーを築くこと、「セルフブランディング」
清水:ただ、だからといって自分をよく見せるために、実績を過度に誇張したり、声高に売り込んだりする必要はないと思います。日本人が育んできた節度や謙虚さといった美徳を失わずに、あくまでビジネスサバイバル上の技術として身につけるべきは、「何を成し遂げたか」という実績を記録し、共有する習慣付けと、自分ならではの付加価値、言い換えれば「ストーリー」を築き上げていく「セルフブランディング」ではないかと思います。
筆者:欧米系の組織は「記録文化」だとよく言われますね。
清水:そうなんです。欧米型組織では、記録に残った実績や発言が、その人の評価を形作ります。 何をメールに残し、何を口頭で伝えるかへの感度は、日本の組織よりも高いと感じます。だからこそ、自分が挙げた成果や直面している様々な問題については、感情論ではなく、事実に基づいて記録に残す。それが自分を守り、正当な評価を得る前提になります。良くも悪くも、「黙っていても誰かが事情を分かってくれる」、「話せば分かる」といった世界ではありません。
筆者:「セルフ・ブランディング」はどうやって作っていくのですか。
清水:セルフ・ブランディングを「自己誇示」ではなく、これまでの経験や強みを棚卸しし、自分が組織や社会にどのような価値を提供できるのかを、他者に分かりやすく伝えるスキルと捉えることが大切だと思います。
私の場合、外務省で携わった安全保障、Googleで取り組んだIT政策、世界銀行での経済開発という、一見異なる分野を結ぶ軸を見いだすことで、「自分だからこそ描けるストーリー」が明確になりました。
筆者:具体例があれば、教えて下さい。
清水:世界銀行でも、外務省やGoogleで培った経験と人脈を、現在の仕事に意識的に結びつけています。例えば、今年モロッコで開催された「マラケシュ経済議会フォーラム」では、欧州、中東、北アフリカ各国の国会議員や企業代表とともに、AI投資をテーマとするパネルに世界銀行代表として登壇しました。Googleおよび日本政府での経験を生かせると考え、自ら手を挙げたものです。
この登壇では、世界銀行での議会対応という現在の主業務に、Googleで培ったAI政策の知見と、日本政府で携わったデジタル・インフラ投資の経験を組み合わせました。AI投資がもたらす可能性とリスクを、政府、企業、国際開発をつなぐ視点から論じることで、「自分ならではの視点とストーリー」を発信できたと思います。過去の経験を現在の仕事に結びつけ、新たな価値に変えることが、私なりのセルフ・ブランディングです。


