世界の第一線で働く中で、「英語が話せること」と「グローバルリーダーとして人を動かすこと」の間には、想像以上に大きな溝があることに気づかされます。外務省での外交官としてのキャリアをはじめ、GoogleなどのグローバルIT企業、そして世界銀行での勤務を通じて痛感したのは、日本人ビジネスパーソンが国際社会で真の存在感を示すために必要なアプローチのあり方です。
今回は、元外交官で、その後Googleや世界銀行で活躍している清水勇祐氏を迎え、日本のビジネスパーソンが直面する課題と今後のキャリア構築に向けたヒントを、「本当の英語力とコミュニケーション」「自己主張とセルフブランディング」「国際社会における日本の立ち位置とゼネラリストの強み」の3つのテーマに絞って対談形式でお伝えします。
なお、筆者(竹崎)と清水氏は、所属官庁(総務省、外務省)こそ異なるものの、国家公務員時代の同期でした。初任者研修等を一緒に受講する中で、当時から、不思議と波長が合う間柄であり、退職後も米国・欧州等各地で旧交を温めています。今回は、世界銀行・IMFの年次総会出席のためバンコク出張中の清水に、近況報告もかねて、取材をさせてもらいました。
※本稿はあくまで個人的見解であり、いかなる所属組織とも無関係です。

清水勇祐氏:慶應義塾大学を経て、米ロチェスター大学卒業、ケンブリッジ大学修士(在学中に北京大学へ留学)、IEビジネススクールMBA等。外務省で15年間勤務し、天皇陛下や首相の公式通訳等を担当。Googleを経て、2022年に世界銀行に入職。現在、各国議会との連携を統括するグローバル議会対応チーム長を務める。東大博士課程在籍、NY在住。日・英・西・中・仏の5言語を操る(右写真:IPU(列国議会同盟))。
テーマ1:単なる「語学力」を超えた「人を動かす本当の英語力」とAI時代の価値
筆者:「英語力」というと、TOEICや英検の級・得点、あるいは海外滞在年数といった指標が評価に用いられがちです。しかし、実際のグローバルな交渉やマネジメントの現場で求められる能力は、少し毛色が違いますよね。
清水勇祐氏(以下、清水):まさにその通りです。外交交渉や公式のプレゼンテーションは、事前準備ができ、一定のプロトコルもある「ルールの決まったボクシング」に近い。国益をかけた非常に厳しい仕事ですが、語学という点では一定程度、定型表現やお作法があります。しかし、多様な国と文化的背景を持つ人々が働くグローバル組織の中では、業務のみならず、給与交渉やプロモーション、部下の指導など、様々な感情や利害が渦巻き、言い方は悪いですが、「シナリオのないストリートファイト」のような英語でのやり取りが日々発生します。
そこで問われるのは、試験で測れる「英語力」ではありません。言語能力だけでなく、立ち居振る舞いやプレゼンス、組織文化の理解も含む「コミュニケーション能力」だと思います。
筆者:そう考えるようになったきっかけなどありますか?
清水:英語圏に20年以上住み「英語力」にはそれなりに自信を持っていました。例えば外交官時代には、ニューヨークの国連でパレスチナ問題など、非常に重い案件を担当し、日々複雑な英語の文書を扱い、他国の外交官と交渉していましたが、英語を不自由に感じたことはありませんでした。
しかし、Googleや世界銀行といったグローバルな組織に転職し、初めてその自信が揺らぎました。それは発音が良いか、たくさん単語を知っているかといった「語学力」の問題ではありません。「外国語(英語)ができること」と「外国語(英語)で人を動かすこと」は、まったく別の能力だと気づいたのです。
筆者:具体的にはどう異なるのでしょうか?



