客を増やす力と、失わない力
販路が広がっても、顧客が離れていけば成長は積み上がらない。大久保氏が目を光らせるのは解約率だ。
定期訪問では、コーヒーが普段どおり減っているかを見る。消費量が落ちれば、飽きが来る可能性を考え、豆の変更や別の商品を提案する。商品を補充する接点が、顧客の変化を捉える機会にもなる。
担当者が新しい顧客の紹介を得れば、インセンティブもある。営業部隊だけに獲得を任せず、日々のサービスから次の契約へつなげる仕組みだ。
この強みは、人を増やせば直ちに再現できるものではない。急拡大による品質低下を避け、既存顧客を守りながら伸ばす。派手な成長率より、契約を積み上げるための現場を重視する姿勢が見える。
米国では、成功した広げ方さえ変えた
国内ではフランチャイズを活用して事業を広げてきたダイオーズだが、米国ではその成功パターンさえ変えた。現地にはすでに、小規模なオフィスコーヒー会社が数多く存在していた。
ノウハウを提供する代わりにロイヤリティを支払って加盟してもらうより、既存の顧客基盤と人材を持つ会社そのものを買収した方が合理的だった。
その結果、米国では150件を超え、M&Aを積み重ねて事業エリアを拡大。現在では、グループ売上約540億円のうち半分以上を米国事業が占めるまでになった。日本の成功手法をそのまま輸出したわけではない。
商品開発や事業運営は現地の人材に任せ、水道直結型のコーヒーマシンなど、米国のオフィス環境に合わせて事業の形そのものを変えた。一方で、大久保氏は、その成功の裏側にあった反省も隠さない。
現地に裁量を与えたことで成長を加速できた半面、日本本社から米国で何が起きているのかを十分に把握する管理体制を構築できなかったという。
「現地に任せること」と「本社が管理すること」。海外事業を伸ばす上で、その両立が次の課題となった。今では日本本社から米国の状況をしっかり把握する管理体制が構築できました。と大久保氏は言う。
ダイオーズが半世紀以上にわたって成長してきた理由は、一つの商材や、一つの成功モデルを守り続けたからではない。
米を届ける力から始まり、マット・モップ、コーヒー、水へ。国内では加盟店網を広げ、米国ではM&Aへと広げ方そのものを変えた。変わらなかったのは、「すでにある顧客との接点に、次は何を届ければ喜んでもらえるか」という問いだ。
いま同社が次の柱として育てようとしているのが、国内の冷凍食品事業と、米国でスナックやフルーツ、飲料などをオフィスに提供するパントリーサービスである。
浅草の米屋で、自転車の荷台に「米以外の何か」を載せようと考えたところから始まったダイオーズ。
57年を経た今、その舞台は日本だけではない。米国を中心に海外へと事業を広げ、グループ売上約540億円規模のオフィスサービス企業へと成長した。
市場が変われば、売り方を変える。組織を変える。必要であれば、成功してきた方法そのものも変える。
ただし、顧客との接点から次の価値を生み出すという原点だけは変えない。
日本で培った強みを持ちながら、世界では現地に合わせて変わり続ける。
その柔軟さこそが、浅草の米屋から始まったダイオーズを、日本から世界へ押し広げてきた原動力なのだろう。


