コーヒーで売ったのは、オフィスの新しい習慣だった
マット・モップで顧客基盤を築いた同社が、次の商材として選んだのがオフィスコーヒーだ。大久保氏が振り返る当時のオフィスでは、お茶が一般的で、女性社員がお茶くみを担う慣習もあった。そこへレギュラーコーヒーを持ち込み、お茶くみの負担から解放するという提案をした。おいしい飲み物を売ることと、働く人の手間を減らすこと。その二つを重ねて、オフィスでコーヒーを飲む理由をつくったのだ。
もっとも、最初から順調に売れたわけではない。創業者が手応えを得たのは、意外にも同業者が現れ、本格的に競争するようになったときだったという。「あ、このビジネスっていけるんだ。だから同業が出てきたんだな」
競合の参入を、市場に認められた証しと受け止めた。独力で新しい習慣を広める段階から、複数の企業が需要を開拓する段階へ。その変化に成長の可能性を見た。一方、同じコーヒーでも、カフェ経営への進出は失敗した。3店舗を設けたものの、うまくいかなかったと大久保氏は語る。
この経験を経て、平日にサービスを提供できる業務用市場へと軸足を定めた。店舗を構えて来客を待つ商売と、営業で顧客を獲得し、定期的に訪問する商売では、必要な力が違う。失敗を通じて、自社が力を発揮できる領域を絞り込んだのである。
信用を、全国ネットワークに変えた
コーヒーを全国に広めるには、東京周辺で培った営業力だけでは足りない。直営拠点を一気に全国へ設けるにもリスクがある。そこで活用したのが、ダスキン加盟店とのネットワークだった。すでにオフィスの顧客を持ち、新しい商材を探している事業者に、コーヒーも扱わないかと声をかけた。ダイオーズ自身が有力加盟店として実績を上げていたことが、このとき効いた。
「あそこの大久保さんがやるんだったら、うちも乗ってみようか」
大久保氏は、加盟店が集まった背景に、そうした信用があったと振り返る。自社が顧客への訪問網を生かして商材を増やしたように、各地の事業者にも、既存の顧客基盤を生かす成長の機会を提供した。
ただし、創業者の信用だけで関係が続くわけではない。本部も加盟店も伸び悩んだ時期には、関係が悪くなったという。新商品や提案が生まれ、再び伸び始めると、加盟店から学びに来るようになった。
「事業の『勝ちパターン』を加盟店さんに見せることができる」
直営店で自ら成果を出し、その方法を加盟店に伝える。最初は信用で仲間を集め、その後は相手の利益につながる実績で関係を維持する。それが、本部の存在価値だった。


