トム・クルーズはオスカーを狙う!?
前述のように、イニャリトゥ監督は「DIGGER/デイガー」を発表するまで、二度目のアカデミー賞監督賞受賞から10年の歳月をかけている。
「本作は 10 年前に始まりました。サビーナ・バーマンと私は、2017 年に脚本を書き始めました。これほどまでに現在と深く結びついた物語を発展させることの奇妙さは、現実が私たちのつくり上げたフィクションを絶えず追い越していったことです。
この間、現実は毎日のようにフィクションを凌駕し、私たちを置き去りにし、修正を迫りました。そのため私たちは、永久凍土のように、自分たちの足元にある地面がいまにも崩れ落ちるのではないかと感じていました。
私たちは、現実が与えてくれるのは出来事であり、その出来事のなかに自分たち自身の姿を見いだせるようにするのは想像力なのだと学びました。現実と想像力。その2つの間のどこかで、この映画は始まりました」
監督自らがそう語るように、作品のなかでは、いまの社会にも通ずるシリアスな問題にも言及している。もちろん監督の「仕掛け」にも驚かされるのだが、そのなかで提起されるメッセージも、プラックコメディの形をとっているとはいえ、かなり今日的なテーマを含んでいる。
それは「気候変動」や「地球温暖化」という括りでも語られるだろうが、イニャリトゥ監督がこの映画について「人間によるディザスター」といみじくも語ったように、観終わった後には、観る側にも深く心に突き刺さるものを感じさせる。
そしてイニャリトゥ監督が発表するまでの10年間「現実に凌駕された」と語るように、作中に登場する「グリーンランド」や「メタンガス」などのワードも、いまこの世界が直面するさまざまな諸相に呼応するかのように、注意深く散りばめられている。
ひと足早く公開されたアメリカでは、「DIGGER/デイガー」に対しては賛否両論が渦巻いている。とはいえ、「否」は作中で語られているメッセージにあるのではなく、主に延々と続く会話劇にあるのではないかとも思われる。
そもそもアレハンドロ・イニャリトゥ監督がこれまで発表してきた作品は「エンタテインメント」と呼ばれるものではない。どの作品も観客に問いを投げかけ、思考を促す作品が多い。トム・クルーズもそれを理解したうえで、この野心的な役柄に挑んだものだと考えられる。
ちなみに、トム・クルーズは、昨年、功労賞とも言うべきアカデミー名誉賞を受賞してはいるが、俳優としては主演男優賞に2回、助演男優賞に1回ノミネートされているのみで、いまだ受賞には至っていない。
なので、過去に2年連続で監督賞を受賞した監督の作品で、ひそかにアカデミー賞を狙っているのではないかとも考えられる。イニャリトゥ監督の「レヴェナント: 蘇えりし者」で、あのレオナルド・ディカプリオが念願の主演男優賞を獲得したように。
とりあえず、「DIGGER/デイガー」という作品は再観賞することをお勧めする。まず一度目は何の先入観もなしにトム・クルーズの一世一代の演技を楽しみ、二度目はアレハンドロ・イニャリトゥ監督の企みに満ちた「仕掛け」を承知したうえで、作品から放たれるメッセージを感知したい。


