さすがにイニャリトゥ監督とのコラボでは、トム・クルーズはこれまでにない独創的な役柄に挑戦している。それだけでもこの作品を観る価値はあるのかもしれない。
とはいえ、映画巧者であるイニャリトゥ監督だけに、作品全体の構造は一筋縄でもいかないものとなっている。詳細に説明するとネタバレになり観賞の際の驚きが激減するので、とりあえず配給会社が公表している「ストーリー」を紹介しておこう。
<石油採掘会社CEO、大金持ちで傲慢な権力者・ディガー。利益しか頭にない彼の欲深い行動がきっかけで、地球滅亡の大ピンチに‼ ディガーは大統領からその尻ぬぐいを命じられ、世界を救うべく立ち上がるが……。果たして、彼は地球を救えるのか? そもそもこの男、信用していいのか⁉>
最後の一文は、いろいろと含みのあるものともとらえられるが、このストーリーは実は作品のほんの一部なのだ。作品にはイニャリトゥ監督の「仕掛け」が随所に張りめぐらされており、注意深く観ていくと、それは、一見では自然描写のようにも映る作品の冒頭からすでに始まっている。
そして中盤に至るにつれて、「仕掛け」は次第に明らかにされていくのだが、作品全体としては物語のなかに物語を置くという「入れ子構造」になっており、さらに複雑で興味深いものとなっている。そして終盤にはいかにもイニャリトゥ監督らしいサプライズと強烈なメッセージも込められている。
もちろん見どころの1つは、トム・クルーズが体当たりで熱演するディガー・ロックウェルを中心に展開される強烈なブラックコメディにもある。
トム自らも絶賛する10分間にわたって演じられるディガーの長大な演説は、その内容とも相まって、演技者としての彼の真骨頂を披露しており、作中でも圧巻のシーンとなっている。
この新たな挑戦に対して「この役を演じるのに40年かかった」というトム・クルーズの言葉は、そのまま彼の掛け値なしの実感であるにちがいない。イニャリトゥ監督もトムの演技に対しては、次のように語っている。
「私はトムが幅広い演技力を持っていることを知っていました。それでも、彼は私を驚かせました。彼は、この騒々しく、才気にあふれ、不条理な男へ、繊細さ、もろさ、そして本物の力を与えました」
トム・クルーズにとって、またイニャリトゥ監督にとっても、「DIGGER/デイガー」という作品で新たなケミストリーを得たことはが生まれたことは想像に難くない。


