世界の映画界にその名を認知させた長編監督デビュー作「アモーレス・ペロス」(2000年、日本公開は2002年)以来、アレハンドロ・イニャリトゥ監督の作品はこれまでずっと観るのを楽しみにしてきた。
「21グラム」(2004年)、「バベル」(2008年)、「BIUTIFUL ビューティフル」(2011年)と、新作が発表されるたびに、その技巧的でチャレンジングな表現方法と人間の心理を深く抉る内容は、いつも驚きと感動をもたらしてくれた。
その後、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)、「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年)で、メキシコ人監督としては異例の2年連続でアカデミー賞監督賞に輝くと、彼にはもはや「名匠」という呼称が冠せられるようになる。
とはいえ、その呼び方にはかなりの違和感があり、いまでも常に瞠目させられる作品を送り出してくるイノベーティブな映画監督の1人として認識している。
そのイニャリトゥ監督が、劇場公開作品としては2年連続でアカデミー賞監督賞を受賞して以来、10年ぶりとなる新作を発表した(この間、2022年にネットフリックスの配信作品として「バルド、偽りの記録と一握りの真実」をリリースしている)。
新作の作品名は「DIGGER/デイガー」。主人公を演じるのは近年「ミッション: インポッシブル」や「トップガン」のシリーズでアクションスターとしてのイメージが定着していたトム・クルーズだ。この2人の「出会い」からいったいどんな作品が生まれるのか、顔合わせを聞いた当初から期待感が高まっていた。
かたや斬新な映像手法で濃密な心理ドラマを描いてきた監督、かたやエンタテインメント映画の象徴ともいうべき人気俳優。この2人の間にどんな「化学反応」が起きたのか興味津々だった。
イニャリトゥ監督の「仕掛け」に注目
新作「DIGGER/デイガー」に関して、イニャリトゥ監督は「ディザスター映画」と断言している。「ディザスター」とは巨大な被害をもたらす災害とでもいうべきものだが、イニャリトゥ監督は、本作でその災厄をもたらすのは「私たち人間」だと言い切っている。
「だからこそ、本作はコメディでなければなりませんでした。不条理で、切迫していて、ばかばかしく、そして、いまという時代そのものを映したコメディです」
その災厄をまずもたらす人間が、トム・クルーズが演じる主人公ディガー・ロックウェルだ。彼は石油採掘会社のCEOであり、傲慢な大富豪で権力者。自らの利益しか考えない強欲な行動が、地球滅亡の危機を招くことになる。
トム・クルーズはこのディガー役をこれまでの精悍なイメージとは真逆のスタイルで演じている。ひと目ではあのアクション全開のトム・クルーズだとは見分けがつかないほどの老けメイクで、しかも腹も醜く出ており、薄くなった白髪に、かなり訛りのある野卑な言葉を放つ。



