受賞効果は新刊だけでなく、過去の著作にも及ぶ
書籍の広報を専門とするPR会社Leverage with Media PRを創業したローレン・コベロは、ノーベル文学賞の受賞による商業的な効果は大きいと話す。
「ノーベル賞の受賞は、書籍の売り上げに非常に大きな影響を与える可能性がある。新刊だけでなく、既刊書の販売も伸びる」とコベロは説明する。受賞を機に海外出版権の新たな契約が成立したり、著者への前払い金が増額された出版契約を獲得したりする可能性もあるという。「出版社は受賞者の人気に乗って、その作品を扱いたがる」と続けた。
では、売り上げはどれほど増えるのか。ノーベル文学賞受賞者には著名な作家も多いが、ジョン・グリシャムやコリーン・フーヴァーのような人気作家ほど本が売れるわけではない。それでも、受賞によって販売が目に見えて伸びることはある。
コベロは2024年のノーベル文学賞受賞者ハン・ガンを例に挙げる。「受賞後、ハン・ガンの著書は100万部売れた」と指摘する。受賞者には講演依頼や新たな出版契約、メディア出演、ブランドとの契約が増え、活動が活発な状態は6~12カ月続く可能性があるという。
コベロは「受賞の影響は滝のように次々と広がる。ノーベル文学賞は特定の1冊ではなく、作家が書いてきた作品全体に対して贈られる賞だという点を忘れてはならない」と強調する。
受賞で広がる読者層、出版社と作家には新たな機会と課題も
独立系出版社GenZ Publishingの創業者モリッサ・シュワルツ博士は、ノーベル賞の受賞によって、作家の作品が新たな読者に届く機会が大きく増えると話す。「作品に触れたことがない人でも、受賞をきっかけに書店で『どの本から読めばよいか』と尋ねるようになる」という。
過去10回のノーベル文学賞受賞者の中で、書籍の販売実績が最も大きいのは2017年受賞のカズオ・イシグロだ。ボブ・ディランはアルバムを1億2500万枚売っているが、音楽作品の販売枚数は書籍の販売部数と比較できないため除外される。ハン・ガンの場合と同じく、受賞は作家の商業的成功に長く影響することがある。
読者の関心を売り上げにつなぐには、出版社の準備が欠かせない
「商機は新刊だけにとどまらない。読者が最初の1冊を買えば、過去の著作全体を知るきっかけになる」とシュワルツは話す。
ただし、読者の関心を継続的な販売につなげるには、購入できる版や翻訳を用意し、初めて読む人に適した作品を案内するとともに、需要を満たす十分な在庫を確保する必要があるという。「作品ごとの販売データがなければ、すべての本が同じように売り上げを伸ばすと想定したり、具体的な増加率を示したりはしない」と説明する。
作家の交渉力が高まるが、次の作品への重圧も生まれる
シュワルツは、長期的には作家の交渉力が高まり、新たな機会も得られると指摘する。「出版社、翻訳者、文学祭、大学にとって、受賞した作家へ注目を向ける理由が明確になる。過去の著作の位置付けや、教育現場での教え方も変わり得る」と語る。
ただし、注目の高まりは新たな機会だけをもたらすわけではない。「知名度が高まれば、機会と重圧の両方が生まれる。より多くの人が作家の時間を求めるようになり、次の作品は受賞によって高まった期待を基準に評価されるかもしれない」とシュワルツは述べた。


