誇張された戦果や仕組まれた証言、先行者利益を争う市場で威力を増す偽情報
同じ構造的な問題が、いたるところで起こっている。軍は戦果を誇張する。ロシアは2022年10月までにウクライナ軍の米国製高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」19基を破壊したと主張したが、ウクライナが供与されたのは16基だけだった。
亡命者グループの主張も誇張されがちだ。1990年、イラクによるクウェート侵攻後に難民とされる少女が涙ながらに語った「イラク軍兵士が病院の保育器から新生児を引きずり出した」との証言は、ジョージ・H・W・ブッシュ米大統領(当時)によって対イラク戦争の必要性を裏付ける証拠として引用された。しかし、この少女は実は駐米クウェート大使の娘で、証言はPR会社が手配した台本に基づくものだった。証言されたような事実は一切なかった。
情報機関は戦略的効果を狙って情報をリークすることがあるが、欺瞞目的とは限らない。2022年にロシアがウクライナに侵攻する直前、米政府が機密指定を解除して発した警告は、正しい情報だったことが証明された。
これにより、ジャーナリズムと戦略的分析の間に緊張が生じる。前者は速報性、情報へのアクセス、物語性を重視し、後者は情報源の評価、競合する仮説、不確実性の考慮を必要とする。エネルギー市場と資本市場はその中間に位置し、スピードと最大限の正確性の両方が求められる。多くの市場変動の原動力となる「ファーストムーバー・アドバンテージ(先行者利益)」の追求は、現代の偽情報キャンペーンにおいて相場操縦の効果を特に高めている。
「ノルドストリーム」爆破は米国か親ウクライナ派か、どちらの説も真相を確定できなかった
ロシアから欧州へ天然ガスを輸送するバルト海の海底パイプライン「ノルドストリーム」の爆破事件からは、その違いが見てとれる。米調査報道ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2023年2月、単一の匿名情報源をもとに、ノルドストリーム事件は米国の破壊工作だと非難する記事を公表した。一方、ニューヨーク・タイムズは同年3月、匿名の米当局者を引用し、親ウクライナ派のグループが犯行に関与したと報じた。どちらの報道も、事件に関する疑問点の解消にはつながらなかった。2026年7月になってようやく、ドイツの検察当局がウクライナ人の容疑者を起訴した。
米ブルームバーグを装う偽画像が、政府も株価も動かす
メディア報道が示すのは、誰かが何らかの主張をしているという事実だけだ。その主張が真実であることを立証するものではない。
この区別が重要なのは、情報の受け止め方そのものが「戦略変数」、すなわち意図的に操作できる要素だからだ。政府は、実際に起こったことに対してのみならず、起こったに違いないと自分たちが信じることに対しても反応する。
2023年5月、米国防総省の付近で爆発があったとする偽画像がSNSで出回った。画像は米ブルームバーグ通信の報道を装うなどした複数の認証済みアカウントによって拡散され、株式市場が一時急落した。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の2018年の研究では、ツイッター(現X)上の虚偽ニュースは真実の記事よりも拡散される確率が70%高いことが判明している。独創的な物語は往々にして、その証拠となる事実よりも寿命が長い。
イラクが生物兵器施設を持つと訴えたパウエル演説、当局者の説明も鵜呑みにできない
こうした事情はいずれも、メディアだけに責任を負わせるものではない。また、政府がジャーナリズムにおける真実を裁定すべきだということにもならない。そもそも政府は最も洗練された戦略的情報の発信母体の1つである。2003年2月、コリン・パウエル米国務長官(当時)は国連安全保障理事会で、イラクが移動式の生物兵器研究所を保有していると主張した。その根拠とされたのは「カーブボール」というコードネームを持つ亡命者だったが、この人物についてはドイツの情報機関が信頼できないと警告していた。
メディア不信は、政府の主張を無批判に受け入れる言い訳にはならないのだ。政府も軍も情報機関も、報道機関と同じく、利害関係のぶつかる環境で活動している。いずれの発した情報にも、是非を検討すべき思惑が潜んでいる可能性がある。


