情報源を明記しても誤報は防げない──AP通信はミサイル着弾の速報を翌日に訂正
問題は、ジャーナリストが利害関係のある情報源に依存することではない。かれらはそうせざるを得ない。また、すべての誤報が情報操作によるわけでもない。肝心なのは、争点のある主張をめぐる正当な報道と、意図的に仕組まれたナラティブ(主観的な物語)をうっかり複製してしまう事態とを区別することであり、これは情報源の明記だけでは解決しない。
2022年11月15日、ポーランド東部の村プシェボドフに1発のミサイルが着弾し、2人が死亡した。米AP通信は速報で、米情報当局高官の話を引用し、ロシアのミサイルが北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領土を攻撃したと伝えた。この報道には情報源がしっかり明記されていたが、報道内容は誤りだった。翌日、AP通信は訂正を発表し、着弾したのはおそらくウクライナの防空ミサイルだった可能性が高いとした。
だが、訂正記事がニュース速報の見出しを打ち消すほどの影響力を持つことはめったにない。わずか数時間のこととはいえ、匿名の当局者のコメントがNATOとロシアの戦争がいよいよ始まるのではないかという不安を煽ったのだ。重要なのは、その主張が独立して立証されているか、どのような利害関係がその主張を形づくったか、そしてどれほどの不確実性が残っているかである。
大国に挟まれた小国ほど疑惑に揺さぶられる──アゼルバイジャンによるCNN提訴
大国に挟まれた小国は、とりわけ深刻にこの問題に直面している。カスピ海と黒海の間のカフカス地方に位置するアゼルバイジャンは現在、自国の領土をイスラエルが対イラン作戦に利用したとする報道をめぐって米CNNを提訴している。これは争点のある主張が主要メディアに取り上げられた際に何が起こるかを示す一例だ。アゼルバイジャン政府もイスラエル当局も疑惑を否定したが、報道内容はアゼルバイジャンとイラン、イスラエル、米国、欧州との関係の受け止め方に影響を及ぼすものだった。アゼルバイジャンを取り巻く情報環境は、ロシア、イラン、トルコ、イスラエル、そして西側諸国によって形成されており、それぞれがこの疑惑に利害関係を持っているからである。ロシアとイランはアゼルバイジャンを外国勢力の傀儡とみなすことに利益を見いだすが、アゼルバイジャンにとっては自国の独立性をアピールすることが国益になる。
隣国ジョージアも、2008年にロシアと軍事衝突した南オセチア紛争後に同様の事態を経験した。欧州連合(EU)の委託を受けた独立調査団が2009年にまとめた報告書は、ジョージア側の砲撃が軍事衝突の発端だったと指摘した一方、紛争の責任の大部分はロシアにあると結論付けた。そしてジョージア、ロシア両政府とも、この報告書が自国の正当性を裏付けたと主張したのだ。


