チェコを訪れた米国人がビールを注文した、という有名な話がある。運ばれてきたのは、半分が泡、半分がビールという巨大なジョッキだった。代金を支払ったのにビールをごまかされたと感じたその米国人は、呆れて鼻で笑った。だが、チェコのビールはこう注がれるのである。逆にチェコ人が米中西部のダイブバーに入れば、縁までなみなみと注がれ、泡がまったくないパイントグラスを受け取り、同じようにぎょっとするだろう。
ビールの注ぎ方は世界各地で異なる。「ウェットフォーム(きめ細かくクリーミーな泡)」や「ドライフォーム(ふんわりと軽くてドライな質感の泡)」と呼ばれる泡があり、攪拌を加えたり、特殊な器具を使ったりすることで、独自のビールの風味を生み出すなど、その方法は実に多様だ。
いくつか見ていこう。
チェコ式サイドプル
まずはチェコの「巨大な泡のボウル」について触れておこう。チェコは1人当たりのビール消費量が30年連続で世界最多を誇り、泡が素晴らしいものであることをよく知っている。泡はタンパク質の毛布のようなもので、ヘルメットのようにビールを守る。また、風味や香りが凝縮される場所でもあるため、ビールそのものとは違う味がする。甘く、まるでデザートのようだと言う人もいる。
このビールは、米国で「サイドプルタップ(Side Pour Tap / Side-pull Tap)」と呼ばれる特殊な蛇口から注がれる。木製のハンドルが付いた大きな湾曲した管である。ノズル内部に備えられたメッシュ状のスクリーンが、きめ細やかな泡の生成を促す。ハンドルを少し開けると泡だけが出て、蛇口を完全に開けるとビールが出る。開口部が大きいため、ほかのハンドルに比べてかなり速く注がれる。
チェコには3種類の注ぎ方がある。「フラディンカ(hladinka)」「シュニット(šnyt)」「ムリーコ(mlíko)」だ。フラディンカはクラシックな注ぎ方で、グラスの縁まで満たし、指3〜4本分ほどの泡をのせる。シュニットは、ビールを満杯に注ぐものではなく、ピルスナー・ウルケル(Pilsner Urquell)のウェブサイトによれば、ビール2に対して泡3、上部に空間を残す注ぎ方である。そして最後が、チェコ語で「ミルク」を意味する「ムリーコ(mlíko)」だ。グラス全体を密度の高い泡だけで満たす注ぎ方で、柔らかな甘みが特徴とされる。こうした本場の注ぎ方を体験してみたい場合は、サイドプルタップを導入している国内のクラフトビール専門店やブルワリーを訪ねてみるのもおすすめだ。
日本式シャープ・ポア
日本でも伝統的にビールの泡が非常に重視されてきた。実際、日本文化では泡は新鮮さを示す。そしてこの注ぎ方は、日本のクラフトラガーの人気を背景に近年は米国でも広がっており、メイン州ポートランドの「アルジェンタ・ブルーイング(Argenta Brewing)」では週末にシャープ・ポアを提供している。チェコ式の注ぎ方と似たところがあり、ウェットフォームがつくられる。



