もう一つは、最初は有利な立場を得るためにアビゲイルの誘いに乗ったが、次第に彼女に魅力を感じるようになったのでは?という疑いがあることだ。性的サービスの後で「これは強制じゃない」と言ってみたり、外で男たちが揶揄うことに対し「堂々としようか。陰口はいやだ」と提案したりといった態度が気になる。脇が甘く嘘のつけない不器用な性格からするとカールは、美人だが高慢なヤヤよりたくましく生き抜く力を持ったアビゲイルに惹かれたと考えられないこともない。
しかしそれぞれの思惑を抱えたアビゲイルとヤヤが、食料を探して遠出した先で、そこは無人島ではなく高級リゾート地であったという事実が判明し、「逆転」の雲行きは一気に怪しくなる。その少し前に、足の悪いテレサが物売りに出会っているものの、言語障害のある彼女は事情を話すことができない。
ヤヤは当然、元の世界に戻れることを確信するが、この島に来て初めて権力を持つ側に立てたアビゲイルは、咄嗟にヤヤの抹殺を企てる。「自分の付き人に」というヤヤからの提案は、アビゲイルにとって再び搾取される側になれという命令にほかならない。ヤヤが死んだことにすれば、まだ少しの間はカールを独占し人々の上に立っていられるのだ。ヤヤとアビゲイルのこの凄まじい緊張状態は、階級闘争が暴力的に成就するかしないかの最終段階だと言えよう。
ラストシーンは、生い茂る草や蔓を掻き分けて走るカールを横から捉えたやや長めのショットだ。彼の必死さから見て、アビゲイルとヤヤの間に起こり得ることに遅まきながら気づいたと見ることができる。
カールの願いは無論、最悪の事態の回避である。それが、今更ながらに気づいたヤヤへの愛なのか、アビゲイルへの愛なのかはわからない。ただ二人を探して死に物狂いで走る彼が、その時だけは、「金」ですべてがランクづけられる階層世界の外にいることだけは確かだろう。


